鬼滅小説


□陸
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その後、すぐに鱗滝さんも戻ってきて。他二人のようなことにはならなかったけれど、鱗滝さんも俺が目を覚ましたことを喜んで、そっと頭をなでてくれた。そして改めて、「三人とも、よく戻った」とお褒めの言葉をいただいた。

それから、四人で夕食を囲いながら、色々な話をした。



「今日は異形の鬼に会ったんだ。体を透明化して惑わす血鬼術を持った鬼だったな」

「倒したのか」

「当然。体もそこそこ硬かったから、それなりに人を喰ってはいたみたいだがな」



鬼は、人を喰えば喰うほど強くなる。強ければ強いほど、その鬼のために犠牲になった人がいたということだ。

考えれば考えるほど、切なくなる。



「あ……そういえば」

「なんだよ、十羽」

「いや……あの、腕の鬼。なにか隙を作るきっかけにならないかと思って、視ようとしたんだけど……」



攻撃を食らい、錆兎に担がれて逃げるまでの間。鬼の方がこちらに向かってこようとしていたので、ほとんど無意識だったが、目を合わせて探ってみたのだ。

しかし、視えたのは、暗がりに子供のような小さな影が二つ、並んで歩いている姿。少しだけ背の高い方が、提灯のような物を持って歩いている。そんな光景だけだった。

否、あのときは大ケガをして意識が朦朧としていたから、ちゃんと視えていたけど忘れてしまったという可能性もなくはないが。



「……ただの推察にすぎないが……」



鱗滝さんは言った。それはもしかしたら、鬼が鬼になる前の、人だった頃の記憶ではないか、と。



「十羽の能力はおそらく、ただ単に人の過去の記憶を視るというものではない。その者の、心の一番奥深くに刺さっている記憶を視る力ではないかと思う」

「心の、一番奥の記憶?」

「鬼は獣。理性を捨てた化け物だ。だが……鬼になる以前の光景は、たとえ当人が忘れてしまったとしても、記憶のどこかにかけらとして残っているのやもしれんな」



しんみりとした鱗滝さんの声が響く。

そう考えると、鬼はなんて悲しい生き物なんだろう、と思う。人であったことを忘れ、おそらくは多くの場合、つい先程まで家族として慕っていた人々を食い殺してしまうのだ。いつから、どうしてそんな存在が生まれてしまったのだろう。



「十羽。鬼に同情なんてするな。鬼になった奴を元に戻すのは不可能だ」

「……うん」

「あと、他の鬼を視て確かめようなんて考えるなよ」

「分かってるって」



義勇と錆兎に鋭く指摘されると、苦笑しながら返事するしかなかった。

それから、以前のように三人で鱗滝さんの小屋に泊まって、一夜をすごしたあと、錆兎と義勇は指令を受けて出ていった。

俺はというと、一月も眠り続けていたせいで衰えた体を元に戻すため、もうしばらく鱗滝さんのところで世話になることになった。



「早く復帰しろよ。俺も義勇も待つ気はないからな」

「慌てるな。鱗滝さんの指示に従って、少しずつ取り戻していけばいい」



なぜかまったく正反対のような言葉をもらい、二人を見送った。

確かに焦りは禁物だが、そうはいってもいつまでものんびりしている場合ではない。やっと、夢への一歩――苦しんでいる人たちを助けるための一歩を踏み出せたのだから。



「よし……お願いします、師匠!」



すぐに追いついてみせる。

気迫を込めて、腹から思いきり声を出した。




続く
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