鬼滅小説


□閑話その三
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***



錆兎や義勇、それに鱗滝さんに内緒で姉弟子の真菰に教わるようになって、数日。



「鱗滝さんに会っていかないのか?」



いつものように畑作業に取り組んでいたところに、真菰がひょっこり姿を見せて会話をする。彼女と会うのは、いつもこんな感じだった。

いつの間にか現れて、帰るときもいつの間にかいなくなっている。不思議な少女だった。

ここに来たのは、てっきり師匠の鱗滝さんに会いにきたからだと思っていたが、そんな場面は一度も見たことがない。

尋ねてみるけれど、真菰はなにも応えずに微笑んでいるだけだった。



「……そうだ。今日、おはぎでも作ろうかって話してたんだ。お彼岸だから」

「そう……楽しそうだね」



真菰がそう答えた。

そのときの笑顔がどこか寂しそうに見えて、一緒に食べよう、と誘うつもりだったのに、なぜか言葉が出てこなかった。

その理由は、その日のうちに知ることとなる。

昼休憩の後に、真菰に言ったとおりおはぎ作りにとりかかった。甘い餡子がたっぷりついたおはぎは、稽古でくたくたになって帰ってくるだろう錆兎や義勇にとっては、うってつけのごちそうだろう。



「鱗滝さーん……あっ」



師匠に味を見てもらおうと、一番いい出来のそれをさらに乗せて外に出て探しにいった。鱗滝さんは、小屋の裏にある墓石のような石の前に立っていた。

うむ……声をかけていいものか。



「どうした」

「あっ……はい。あの、おはぎが……っ!」



おはぎができました、という言葉は、途中で遮られた。

それは、墓石の脇に刻まれている名前を見たせいだった。十人ほどの名前が刻まれているのだが、その中の一つを見て、驚きを隠せなかった。

真菰。

今朝も会った、あの少女と同じ名前だ。俺の体術の改善点を色々教えてくれた、あの可愛らしい笑顔の女の子と。



「これは……」

「……わしの弟子だった子供たちの名だ」



鱗滝さんが落ち着いた声で教えてくれた。

弟子『だった』。過去形ということは、すなわち。

俺は、言葉を失った。なぜ、もっと早く気づかなかったのだろう。真菰と初めて会ったとき、目を合わせても彼女の記憶が視えてしまうことは一度もなかった。その違和感に。

真菰。君はもう、この世の人ではなかったんだな。ちょっと驚いたけど、でも、会えて嬉しかったよ。



「これ……一番いい出来のやつなんです。お供えしてもいいですか?」

「……ああ。そうしてやってくれんか」



許可をもらってから、しゃがんでお皿に乗ったおはぎを供える。目を閉じて、そっと手を合わせた。

色々教えてくれてありがとう。これからも頑張るから、よければ見守ってくれな。俺だけじゃなくて、錆兎や義勇、それから鱗滝さんのことも。

心の中で祈った直後、一筋の風が吹いた。目を開けて空を見上げた瞬間、「ありがとう」と可愛らしい声が聞こえたような気がした。




閑話その三 了
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