鬼滅小説
□玖
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赤くてまるっとしたつやつやな肌。濃い紫色の愛らしい体。緑色で細長いすらっとした姿。
夏は、色々な野菜がとれるおいしい季節である。
市場にいけば、とれたて新鮮な野菜が所狭しと並んでいる。それらを見るのも悪くないが、やはり自分で手をかけて育てた野菜たちを眺める方が好きだ。そして、それらが人の口に入り、喜んでもらえる。こんなに嬉しいことはない。
「たくさん実ってるわねぇ」
立派に育ったトマトを手に顔を緩ませていたら、おっとりとした口調の声が聞こえてきた。
声ですぐ誰か気づき、立ち上がって一礼する。
「カナエ様。お疲れ様です」
「十羽くんもお疲れ様。毎日おいしい野菜をありがとう」
カナエ様の満面の笑みに、野菜を見るのとは別の安堵感に包まれ、こちらまで笑顔になる。
蝶屋敷で働くようになってから、早くも三年の月日がたっていた。畑の耕作も、始めた頃は何度も失敗してしまったが、土を育てるところから入念に行なうようになってからはこのとおり。季節ごとにさまざまな野菜を収穫できるようになった。
「こちらこそ。屋敷内に畑を作ることを許可していただけたおかげです」
「ふふ。自分たちで手をかけたものを使った料理を食べて早く良くなってほしい、っていう十羽くんの熱意にとても感銘を受けたの。これからもよろしくね」
「えっあ……はい!」
カナエ様が、土いじりをしたばかりの汚れた手を構わず握ってきたので、驚きつつも力強く返事をする。
主がこんな広大な心の持ち主だからこそ、屋敷で働く者は尽くしたいという気持ちでいっぱいなのだ。もちろん、俺も。
「それでね。十羽くんに一つ、お願いがあるんだけど」
「はい。どうぞなんなりと」
「明後日の柱合会議に、同行してほしいの」
「はい……え? 柱合会議?」
先程とは違う、少し困ったように笑うカナエ様を見て、途端に嫌な予感が胸に広がっていった。
***
柱合会議とは、年に数回、鬼殺隊の柱が集まってお館様を前に任務の成果や鬼の動向を報告しあう会議のことである。
ここでは、柱になるための条件を満たした隊員を、新しい柱として承認するための話し合いも行われる。今回、カナエ様がこちらに同行を求めてきたのは、それに関わることだった。
「めったにないことなんだけど……同じ呼吸の使い手で、柱になるために必要な条件を満たした人が同時期に二人出たの。そこで、どちらが柱にふさわしいかを会議で決めることになったんだけど」
「どちらも譲らなくて話が進まないというわけですか」
鬼殺隊の頂点に君臨するお館様の直属、いわゆる幹部の地位なんて、喉から手が出るほどほしいと思う隊員は大勢いるだろう。位が上がれば上がるほど、給金の額もそれに比例するというのだから。