鬼滅小説
□拾参
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しのぶ様におつかいを頼まれ、浅草に到着したのは予想どおり日が落ちた頃だった。優秀な鎹鴉のおかげで迷わずに来られたが、問題はここからだった。
「……都会コワイ」
この一言に尽きる。
まず、明かりが眩しい。夜にこんなに明るい場所に来るのは初めてだ。そして、人通りも馬鹿みたいに多い。夜中にこんな出歩く人がいるなんて。山小屋生活だったら、どちらも考えられない。ある意味事件だ。
さっさとおつかいを終わらせるため、道行く人に尋ねながら、目当ての老舗薬屋に辿りつく。しのぶ様のメモを見せれば、なんてことのないようにすぐに出してくれた。さすが老舗。
頼まれたものは手に入ったので、あとは帰るだけだ。しかし、外はすっかり夜。選択肢としては、このまま無理矢理帰るか、どこか安宿を見つけて一泊するかのどちらかだ。
「……都会……怖いしなぁ」
安宿かと思いきや、法外な宿泊料を請求されたらたまったものではない。選ぶべきは、やはり前者か。
人ごみをかきわけ、元来た道を戻るため町はずれへと向かった。
しかし、そのとき。
「……っ!?」
一瞬、すれ違った人物と目が合い、直後にある映像が頭の中に流れ込んできた。
目の前に、ある一人の剣士が刀を構えて立っている。長い髪を後ろでまとめて縛っていて、どこかで見覚えのある、花札のような耳飾りをつけている。自分は彼に追い詰められ、地面に伏していて――。
「おい、お嬢さん。落ちたぞ」
「……あ、あ……すみません」
抱えていた薬草の束を、思わず落としてしまったようだ。通りすがりの親切な人に拾うのを手伝ってもらった。
お嬢さんではない、と否定する余裕もなかった。なぜなら、あの力を使おうとしたわけではないのに、勝手に視えたのだから。誰の記憶かも分からない、意味不明な記憶が。
やっぱ、都会怖い。
手伝ってくれた人にお礼を言うと、足早にその場を立ち去った。
***
人通りの少ない場所に出て、一息つく。
「……なんだったんだよ、さっきのはぁ……誰の記憶だよホントにさぁ……」
町まで案内してくれた鎹鴉はどこかに姿を消してしまったため、ただの独り言である。誰かに聞かれたら、怪しまれること間違いない。