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□自分に勝て
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放課後練習の後、光太郎さんに自主練習に誘われた京治にまたしても便乗して付き合うことにした。
「今日はブロック跳ぶっス。レシーブでもいいっスよ」
「おー! 今日はケガ……してんじゃん」
「皮むけただけなんで大丈夫っス」
光太郎さんは腕組みをして「うーむ」とうなってから、なぜか京治を見た。
「どう思う?」
「え? いや……まあ、その程度だったら無理しなければ大丈夫じゃないですか? 無理しなければ」
「なぜ二度も言ったし」
「念のためにだよ」
京治のお墨付き――といえるかは微妙だが――をもらったので、二人とはネットを挟んで反対側に立った。どうも信用がない様子なので、今日はとにかく突き指せずに終えられるようにするしかない。
際限のないスパイク練習が続いた――ちゃんと壁になれているか甚だ疑問だ――が、頃合いを見計らって小休止をもちかけた。
「俺ちょっと新しいタオルとってきます」
へばっている京治と、まだまだ打ち足りなそうな光太郎さんにそう一声かけて、体育館を出て部室へ向かった。外はすでにすっかり暗くなっており、明かりがついた部室が遠くからでもすぐに分かった。
そこで、俺は「部室の電気がついている」という違和感に気づいた。放課後練習が終わってからすでに二時間以上が経過している。自主練習をしているのは、光太郎さんと京治と俺の三人だけだ。他の部員は全員、とうに帰宅したはずだ。最後になった誰かが電気を消し忘れたのだろうか。
足音を極力消して近づき、ドアノブを握る。音を立てないように回し、そして勢いよく引いた。瞬間、ドサッとなにかが落ちるような音がした。中にいた人物が、手にしていたエナメルバッグを落とした音だった。
「お……お前かよ。なんだよ脅かすなって」
その人物―—蒼葉先輩は顔を引きつらせながら、いつもと同じようになんでもない様子でそう言った。
「すみません。誰かまだ残ってたのかと思って。どうかしたんスか? 京治の――赤葦のバッグなんか持って」
「え? あ、いや……忘れもん取りに戻ったらここに置いてあったから、誰のだっけって思って――」
「京治はバッグをロッカーにちゃんとしまってたっスよ。床になんて置いてないっス」
「あー……じゃあ、なんかのはずみで落ちたんじゃね?」
「苦しい言い訳っスね。っていうか、言い訳にもなってませんけど」
「……お前、さっきからなに? 俺がなにかしようとしてたとでも言いたいわけか? あ?」
「それはあんた自身がよく分かってるんじゃないんスか」
蒼葉先輩はわざとらしく大きな音で舌打ちをして、威嚇するように険しい顔で俺の前に移動した。