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□自分に勝て
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「俺の弱みを握ったつもりかよ」
「だからなんのことだか分からないっス。俺が見たのは、京治のバッグが床に落ちてるとこだけっスから」
告げ口なんてするつもりはない、と意味を込めて言ったつもりだったが、蒼葉先輩はまったく信じていない様子で俺を睨みつけている。
「……先輩さっき、上級生にざまぁみろって言いたくて頑張ってきたって言ってたけど、ホントは違うんじゃないスか」
「はぁ?」
「そんなちっぽけな恨みだけで、3年間も続けられっこないっスよ。純粋に、勝ちたい、強くなりたいっていう気持ちがなかったら」
「……っ」
自分のロッカーを開けて、本来の目的である新しいタオルを手にとり、再び先輩の横を通って一歩外に出てから振り返った。顔を俯かせた蒼葉先輩が強く握っている拳を手に取り、半ば無理矢理にほどいた。
「人が悪事を働くのは、満たされてない証拠らしいっスよ。先輩。だから、これからも存分に満たされてください。バレーで」
そう言うと、蒼葉先輩は俺の手を払いのけて背を向け、なにも言わずに肩を震わせていた。俺は踵を返し、電気を消して部室を出た。
「風」
体育館へ戻る途中で、光太郎さんに付きっきりだったはずの京治が駆け寄ってきた。
「どうした?」
「いや、こっちのセリフだけど。遅いからなにかあったのかと思って」
「ああ。いや、部室の電気がついてたからまだ誰かいんのかなって思ったんだけど、誰もいなくてさ。一応隅々まで確認してたんだよ」
京治が怪訝そうに眉を寄せる。
「変わったところはなかったし、たぶん誰かがつけっぱで帰っちまったんだろ」
「……そんなことあるか?」
「あるんでないの。知らんけど」
首をかしげて言った。京治はまだ疑っているような素振りをみせたが、「なにもなかったんならいいけど」と言った。
「光太郎さんは?」
「まだまだやる気だよ。際限ないから、お前の様子を見てくるって言って抜けてきた」
「やる気満々……いいことじゃん」
「まあね」
並んで体育館に向かって歩きながら、京治に気づかれないように部室の方を見た。
どうか先輩が、早まって退部するなんて言い出すことだけはありませんように、と一人心の中で呟いた。
続く