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□ひとつ目の春が終わって
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年が明けて、まもなくやってきた春高。正式名称、全日本バレーボール高等学校選手権大会。春はどこからきた。
インターハイと並ぶ、否、それ以上に盛り上がるといってもいい。なぜなら、3年生にとっては本当の意味で最後の大舞台だからだ。我らが梟谷は、残念ながら優勝は逃した。それは本当に残念だったけれど、それ以前に残念というか、大変だったことがある。今回はその件を詳しく話したいと思う。
「…………」
ある試合前、いつもは早く試合がしたいとばかりにわくわくしているはずの光太郎さんが、そのときは違った。どちらかというと、それとは真逆のげんなりしているような様子だったのがひっかかった。
「どうしたんスか、光太郎さん」
「……姫野……」
声にも覇気が感じられなかった。明らかに今までと違う様子に、俺はわけが分からず、京治に聞いた。
「会場、見てみなよ」
京治もなぜかうんざりしたような顔をしていた。言われて見回すと、いるのは選手や関係者くらいで、大勢の人―—収容人数は知らない――が入る観客席は空席が目立つようになっていた。
それも仕方がないことだった。なぜなら今は、午後7時前。前の試合がフルセットかつ何度もデュースにもつれこんだために時間がのびたせいだ。
「……もしかして」
京治が険しい顔をしながら無言で頷いた。どうやら、あれが発動してしまったようだ。
「木兎さんには弱点がある」
そう京治に相談されたのは、年明け前、冬休みに入る前のある日の放課後練習中だった。
「弱点?」
「ああ。ずっと不思議だったんだ。木兎さんほどのステータスなら、『三本の指』に入っていてもおかしくないのに」
俺は、「確かに」と言って頷いた。
全国屈指の実力を誇るスパイカートップ3のことを、『三本の指に入る選手』と呼ぶことがある。誰がどんな基準でランク付けしたのかは知らないが、光太郎さんはトップ5止まりだった。
「その弱点がトップ3入りできない理由ってこと?」
「そうだと思う。俺も正直驚いたけど……」
「どんな弱点?」
「いちから説明するのはなかなか難しいんだ。なにせ――少なくとも40個近くあるみたいだから」
「超絶予想外」
京治は顎に手を添えて視線を下に向け、さながら物語に登場する名探偵が推理しているような姿勢で言った。表情はいたって真面目で、決してふざけているわけではないようだった。一周回って、よくそこまで見つけたな、と感心した。