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□プライドでは腹はふくれないけれど
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俺が連れてきた人物を見た光太郎さんは、目を輝かせていた。見立てどおり、彼の目にかなった様子だ。
その人物とは、烏野所属の1年生・月島。眼鏡――ブロック役にあてるのは危ない気がするが――に、クリーム色ともとれる薄い茶髪。それから、特筆すべきは1年にして190近い高身長。灰羽といい、今年の1年は粒ぞろいなのか。
「俺、もう上がるんで。失礼します」
光太郎さんが「ブロック跳んで!」と言うと、やけに低めのテンションで月島はそう言った。ろくに説明せず、「ちょっとついてきて」とだけ言って連れてきたのはやはりまずかったか。
「君もMBなら、もう少し練習した方がいいんじゃない?」
悪役のようなドヤ顔をきめた黒尾さんが挑発すると、月島は腹を立てた様子で、無言で体育館へと入った。「もう少し」の部分を強調されては、癪に障るのも当然だ。
光太郎さんは嬉々として、「もう1本!」と、繰り返しスパイクを打っていった。月島がそれに食らいつくようにブロック役をこなしている。途中、限界を迎えてへばった灰羽を放った黒尾さんが、2枚目のブロック役に入った。
「おーい灰羽、大丈夫かー」
「…………」
返事がない。屍のようだ。
俺が灰羽を介抱していると、コートから「くそー!」と、光太郎さんの声がした。黒尾さんが入ったことで、見事にスパイクを止められてしまったようだ。
「メガネくんさぁ、読みはいいんだけどなんかこう……弱々しいんだよな。蜜森とは違った危うさがあるっつうか……いやでも似たようなもんか。腕とかポッキリ折れるんじゃないかって心配になるんだよな。ガッ! っと止めないと、ガッ! っと」
光太郎さんは相変わらず擬音語が多くて、アドバイスのつもりなのかちっとも参考になっていない。というか、俺とは違った危うさってなんだ。
「俺まだ発展途上ですから。筋力も身長もまだまだ伸びるんで」
「なにぃ!?」
「いいのか? そんな悠長なこと言ってると、あのチビちゃんに追い越されちゃうかもよー? 同じポジションっしょ?」
光太郎さんの歯に衣着せぬ物言いにドヤ顔で反論した月島は、続く黒尾さんの煽りには無反応だった。というのも、こちらからでは背中しか見えなかったので、どんな顔をしているのか見えなかった。
「……じゃあ俺、そろそろ失礼します」
「あ? おい!」
そう言って、月島は黒尾さんが呼び止めるのも聞かずに、さっさと体育館を出ていってしまった。
「なんか地雷踏んだんじゃないんですか? 黒尾さん」
「ええ?」
「あーあ、おっこらしたー。大失敗じゃん。挑発上手の黒尾クン」
光太郎さんがふざけて言うも、当の黒尾さんはわけが分からないといわんばかりに眉を寄せて頭をかいた。
「いや……だって思わねーだろ。身長も頭脳も持ち合せてるあいつが、チビちゃんを対等どころか敵わない相手として見てるなんて」
「あれじゃないスか?」
俺は、復活して自力で起き上がれるくらいまで回復した灰羽にタオルを渡してから立ち上がり、口を挟んだ。