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□プライドでは腹はふくれないけれど
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「まあ、俺にとっては未体験のことばっかだったから。基礎練にしても何にしても。試合で活躍する以前に、強くなる以前に普段の練習が楽しくてな。それだけ」



持て余すほどの怪力については省き、簡単に説明したつもりだったが、月島は納得できない様子で眉間に皺を寄せて顔を俯けた。



「分かんねぇだろ」

「はい全然」

「当たり前だよ。お前は俺じゃないから。あんま人のこと気にしない方がいいよ。理解できないもやもやした部分が溜まってって、後で苦しくなるだけだから」



顔を俯けていた月島が、一瞬目を見開いた。しかし、すぐに無表情に戻ったかと思ったら、無言で会釈して立ち去っていった。



「あ、あのっ」

「なんだい、そばかす君」

「そ……っ山口です!」

「なんだ、山口」



月島を追いかけるかと思われた、そばかす君もとい山口が声をかけてきた。



「もしツッキーが「後輩として」って答えてたら、なんて言ってたんですか?」

「他当たれ」

「えっ?」

「俺はお前が欲しがってる答えなんて持ってねぇから他当たれ、ってところだな」



山口は少しの間ぼんやりとしていたが、まもなく我に返って「失礼します!」と、一礼しながら言って、走って月島を追いかけていった。俺はため息をつきながら、しばらくその後ろ姿を眺めていた。

あいつらがなにに悩んでいるのかはよく分からないけれど、なぜもっとシンプルに考えられないのだろうか。楽しいからやる、楽しくないからやめる。それではだめなのか。



「そんな簡単な話で済んだら、悩んだりしない」



今日の練習開始前にこのときのことを京治に話したら、そう言われた。



「そうか?」

「悩むってことは、100パーセント「人に言われてやらされている」わけじゃないからだろ。心のどこかには、多少なりともプライドはあるんだよ」

「……なーる」



京治の言葉は、妙に納得できる説明だった。昨夜の自主練で、月島が黒尾さんに日向を引き合いに出されて挑発されたとき、態度を一変させて立ち去ってしまったのは、そのプライドとやらを踏みつけられたような感覚だったからなのかもしれない。



「他校の俺らが気にしたところでどうしようもないよ。こればっかりは、本人がどうにかして折り合いをつけるしかない」

「……もっと単純に考えたっていいと思うんだけどなぁ」

「なんで話を最初に戻すの?」

「ヘイヘイヘーイ! 今日の最初の相手は誰だー?」



呆れる京治の肩に手を置いて、先に準備を終えてやる気満々な様子で叫ぶ光太郎さんのもとに向かった。

難しい話は忘れて、俺はやりたいこと、やるべきことに集中しようと頭の中で切り替えた。





続く
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