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□ニックネームは悪口であってはならない
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「おーし。じゃあ俺もなんかいいやつ考えてやるぞ」
「いえ、結構っス」
「そうだなぁ……蜜森はやっぱ力が強いから……」
光太郎さんは顎に指を当て、目を閉じて考えこんだ。人の意向はガン無視である。
「うーんと……そうだな……「なんか力がちょーすげー奴」とか!」
「ぶっ……! だっさ! せ、センスの欠片もねーわ!」
「なんだとぉ!? じゃあお前もなんか作ってみろよ!」
腹を抱えて笑う黒尾さんに、光太郎さんが詰め寄った。
「あー? そうだな……「カルシウム君」」
「なんだそりゃ!? 蜜森はそんな骨太じゃねーぞ!」
黒尾さん作のあだ名と光太郎さんの真面目だが的外れなツッコミを聞き、1年生3人がとうとう吹きだした。上級生相手だからと、一応は遠慮しているのか必死にこらえている。
「いいよ、我慢しなくても」
「す、すみませ……ぶはっ!」
俺が許可すると、日向と灰羽は堂々と笑い転げていたが、月島はそれでも陰で口に手を当ててこらえていた。
「な? 「ツッキー」の方がよっぽどマシだろ」
「……そうかも、しれませんね」
月島ににやついた顔のままそう言われるとあまりいい気はしなかったが、少し歩み寄れたということにして目をつぶっておく。それよりも、こんな話題を持ち出した京治になんらかの抗議をしなければ気が済まない。
「コンビニ行く?」
「コンビニ?」
「アイスでよければ1つ奢るよ」
さすがに悪いと思ったのか、京治がそんな申し出をしてきたので、一も二もなく頷いた。
その後はさらにもうひと試合した後、食堂が閉まる前に切り上げて急いで夕食をとり、解散となった。俺と京治は入浴後に外に出て、近くのコンビニへと向かった。
偏見だろうが、埼玉という暑いイメージしかなかった場所でも、夜になるとそれなりに涼しくなるようだ。夜風が入浴後の火照った体に心地よい。
「さっきツッキーとなにしてたんだ?」
「ツッキー呼びするんだ」
「俺はなんたって、「なんか力がちょーすげー奴」だから」
「それを採用するのかよ」
「シンプルでいいじゃん」
「あっそ……別に大したことじゃないよ。「一人時間差」のこと聞かれたから説明してただけ」
「あー。あの謎の動きの」
時間差攻撃は、タイミングをずらしてブロックを空振りさせることで点につなげやすいという技術だ。京治は、「こんなの練習すれば誰だってできるよ」などとほざくが、そんな簡単に誰でもできたらブロックの意味がほとんどなくなってしまうだろう。
「自分から聞いてきたってことは、あいつもようやくエンジンかかってきたって感じか?」
「そうなんじゃない?」
「はー。さすが光太郎さん。あの言葉で一気に形勢逆転って感じだったよなぁ。俺なんてただ惑わせただけだったっぽいし」
「そんなことはないと思うけど。##NAME4##も木兎さんも、根本的なところは同じだから」
「根本的なところって?」
「今をとことん楽しんでるところ、かな」
そのとき、京治は自嘲気味に笑っていた。なぜそんな顔をするのか不思議に思ったが、ちょうど目的地のコンビニに着いてしまったので聞けなかった。