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□ニックネームは悪口であってはならない
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「もしそのときがきたら……それが、お前がバレーにハマる瞬間だ」
光太郎さんはうまいことを言う。さすがだ。
俺が月島と話をした日の夜、絶対に光太郎さんの誘いには応じないと思っていた奴が、「聞きたいことがあるんですけど」と言ってやってきた。そんな彼に、光太郎さんは去年の出来事――ストレートを完璧に習得したときのことをまぜて話をした。
あれは、5本の指に入る光太郎さんが、才能などではなく努力の結果手に入れたものだということを裏付けしていると言ってもいいような出来事だ。ガチガチのブロックで光太郎さんのストレートを1つ残らずシャットアウトしてきた相手を、研究と練習と時間を積み重ねて、同じストレートで打ち負かした。瞬間、腹の底から湧き上がる衝動により無意識に歓喜の声を上げたのを、今でも鮮明に覚えている。
以来、光太郎さんのその言葉がきいたのか、月島は自主練の誘いに応じるようになった。光太郎さんと京治、黒尾さんに月島。控えに俺。
さらには、
「俺も入れてください!」
プラスで日向と灰羽。この日から、自主練の時間が賑やかになった。作るドリンクが2人分増えたのだが、されど2人分。マネージャーはこれの倍以上の量をほぼ毎日何度も作っているのだから、ものすごい仕事量だ。今後はもっときちんと感謝しようと思った。
コートでは、3対3のミニゲームが行なわれた。ネコ対フクロウということで、音駒の黒尾さんと灰羽に月島のチームと、光太郎さんと京治に日向が加わったチームだ。みんな、なんだかんだ楽しそうでなにより。
「あ、あのっ姫野さん」
一旦休憩になり、ドリンクを配り終えてから少しとれかけていた包帯を巻きなおしていると、床に座って休んでいた日向に声をかけられた。
「それ、ケガしたんですか!?」
「いや? むしろ逆」
「逆?」
日向とその隣に座っていた灰羽の声がかぶった。
「そう。昼間の練習で酷使したから、休めるためにしてるだけ」
「……へー」
「お前らも気をつけろ? 特にスパイク練とかサーブ練習してっとすぐケガするから。手の平とか手首とか、何度骨折したことか」
「え?」
感心していた日向と灰羽は、その俺の言葉で顔を引きつらせた。
「ここでそういうケガしたら、ヘタしたら帰される可能性もあるみたいだから」
「……ヘー。ソウナンデスカ」
日向は引きつらせた顔のままなぜか片言で喋り、灰羽は理解できないとばかりに首を傾げていた。
「さすがは「大ケガデパートの常連客」」
「……なにそれ。誰作?」
「小見さん」
京治が俺の隣に移動して言ってきた。
「あだ名の枠超えてんだろ」
「他にもあるよ。「キングオブデストロイ」(木葉さん作)とか、「右手の魔神(猿杙さん作)とか」
「大喜利じゃねぇんだけど」
そばで聞いていた黒尾さんが爆笑している。
1年のときにつけられた「負傷王」はまだあだ名と言える域だったけれど、今聞いたものはどれもただのふざけ半分で作った異名でしかない。