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□鬼とは人の心に棲むもの
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長かった合宿も残すところ3日となった。
今日も今日とて、ひたすら練習試合をしてまわって、ひと試合ごとに1人で裏山坂道ダッシュをしている。ちなみに、うちのチームは今日も負け知らず。
猛暑の中で行なう坂道ダッシュは、肉体的にも精神的にもなかなかの負荷がかかるのでいいトレーニングになる。それは嬉しいのだがしかし、毎日ひと試合ごとに続けているとさすがに飽きがくる。そろそろもう一段階くらいは難易度を上げたい。
「うへえ……あっちぃ……」
坂道を前に腰に手を当てて考えていると、先にペナルティを終えた日向たち烏野の面々が戻ってきた。
「あ、蜜森さん。またやってるんですか?」
「自主的にやるとかホントすごいですね」
日向と月島に声をかけられ、俺は「うんまあ」と頷きながら答えた。月島は感心しているというよりも、うんざりしている様子で目を細めていた。
そこで、ふとひらめいて、右手を左手の上にポンと叩きつけた。
「日向、ちょっと協力してくんない」
「へ? 協力?」
「時間はとらせないし、お前は楽にしてるだけでいいから」
「はぁ。別にいいですよ」
なにをすればいいんですか、と首を傾げる日向の体を抱え、俵担ぎをした。
「え、ちょ、なにする気ですか!?」
「なにって、これで走るんだよ」
「……え?」
「大丈夫。ちゃんとまたここまで送り届けるから。さっきも言ったけど、お前は休憩のつもりで楽にしてくれてていいよ」
「いやそういう問題じゃなくて! っていうか休憩のつもりでって――」
「行くぞ」
「人の話聞いてくだ、ああぁぁぁぁいぃ!!」
日向の意見を途中で遮るように、一気に坂道を駆け上がった。頂上についたとき、それは間違いではなかったと分かった。単純に1人で駆け上がるよりははるかに負荷がかかって、いい意味で刺激的だった。
「……日向、生きてる?」
「は、はい。なんとか……」
「じゃあ下戻るな」
「え、もしかしてこのままぁぁぁぁ!?」
向きを変え、日向を抱えたまま坂道を下っていった。立ち止まって日向を下ろす。
「ありがとう」
「いえ……どういたしまひて」
若干目が虚ろで呂律も回っていなかったが、自分で首を横に振って頬を叩いて気合いを入れていたので大丈夫だろう。
「おいっ! てめー翔陽になにしてくれてんだ!」
体育館に戻ろうとしたら、目の前に逆立った髪をした男が立ち塞がった。こちらを指さし、敵意をむき出しにして睨みつけている。彼は、西谷。烏野のLを務める奴だ。