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□鬼とは人の心に棲むもの
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「西谷だよな」
「だったらなんだ!」
「今度俺のサーブ受けてくれよ」
西谷は一瞬、戸惑ったように眉を寄せて言葉を失ったが、すぐにまた警戒心全開の顔に戻った。
「上等だコラ! てめぇのサーブなんざ1つ残らず上げてやる!」
「そりゃ楽しみだ」
西谷の覇気のある返事に満足して、日向に「また頼むな」と声をかけてから体育館へ走って戻った。
それから、試合後の坂道ダッシュでは、誰かしらを抱えて走ることにした。大抵は日向だった――烏野は今日も負け続けていたため――が、1回だけ音駒の孤爪を抱えたこともあった。ただし、それ以降孤爪は目を合わせてくれなくなり、いつもはふざけ半分な態度の黒尾さんからも真面目に猛抗議を受けてしまった。
そして、俺は今体育館の冷たい床の上に、直に正座させられている。目の前には、腕を組み、氷点下ばりに冷酷な表情で見下ろしてくる京治の姿があった。
「他のチームの奴に迷惑かけるな」
「ちゃんと許可はとったぞ」
「こういうことをするからってちゃんと具体的に説明してからじゃないと意味がないだろ。それ以前に、まだ会って間もない日向が上級生のお前になにか頼まれて簡単に嫌ですなんて断れるわけないだろ」
「そうか?」
「逆の立場になって考えてみろよ」
「俺は断れるけど」
「それはお前だから――」
「あ、そっか。京治が光太郎さんの頼みを断れないのと同じか。そう言ってくれれば分かりやすかったのに」
「…………」
叱る側の京治が黙ってしまい、どうしたものかと視線を動かすと、隅の方で縮こまって震えているスタメンの方々がいた。中には光太郎さんの姿もある。
京治の後ろ姿があまりにも恐ろしくて仕方ないのだろうか。ならば、次の試合に支障が出ないようにうまく収拾しなければ。
「じゃあ京治。罰として俺次の試合――」
「正座」
「……うん?」
「ベンチの横で正座してろ。危ないとき以外は動くの禁止」
「承知」
京治の命令は俺が考えていた罰とほぼ同じ内容だったので、甘んじて受け入れることにした。もちろん、ちょっとやりすぎた、という反省の気持ちはしっかりとある。
次の試合では、言いつけどおり正座をして待機していたが、そのせいで足が痺れて、坂道ダッシュもその次の試合に参加するのもままならなかった。これで十分な罰を受けたとしてもいいのではないだろうか。
夜は、毎度のことながら光太郎さんの自主練に付き合った。今日のメンバーは、灰羽以外のいつもの面々だ。ちなみに灰羽は、音駒のLの夜久さん指導のもと個人レッスンを受けているとのこと。
「いてっ」
何度目かの光太郎さんのスパイクに対してブロックで跳んで手にボールが当たった日向が、小さく声をもらした。たまたま横を通ったときだったので、俺にはばっちり聞こえた。
「やったか、指」
「え!? いえ、そんな――」
「無理したら明日の試合全部出られなくなるかもしんねーけど、いいのか」
「イヤデス」
泣きそうな顔になりながら片言で返事をする日向の首根っこをつかんで、コートの外に連れていった。床に座らせると、なぜか日向は緊張した面持ちでこちらを見つめた。