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□鬼とは人の心に棲むもの
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「……昼間は悪かったな」

「へ!?」

「日向見たら、ちょっとテンション上がっちまって。ちょうどいいのいるじゃんってさ。マジごめんな」

「い、いえ! 俺は全然大丈夫っすよ!」

「ならいいけど。手、出して」



日向がおそるおそる差し出してきた手をとって、軽く動かしてみる。痛みはほとんどない様子なので、ただの突き指だろう。念のためにと用意していた氷嚢が役に立った。適度に冷やしてからテーピングを巻いてやると、日向が「ほえー」と、間抜けな声を出した。



「すっげー手際いいっすね」

「そりゃまあ慣れてるから。1年の頃は突き指なんて毎日してたし」

「毎日!?」

「おう。超下手だったからなー。バレーは高校入るまで未経験だったから」

「マジっすか!? 俺もっすよ!」

「だろうな」

「だろうな……って、どういう意味ですかそれ!」

「いや別に」



そこで頭上のライトが遮られたので顔を上げると、疲れた顔の京治がいた。



「日向、大丈夫?」

「あ、はい!」

「ただの突き指」

「ならよかった。先に2人で飯行ってきたら?」

「え、いやでもまだ――」

「そうするわ。ドリンクそこに置いてあるから」



おそらくは、日向が引き続き自主練に参加しようとするのを見越した上での提案だろう。京治のそれに遠慮なく乗っかって、日向を引きずって体育館から出た。「まだ俺やりたりないんすけど!」と、文句を言っていた日向は、食堂に到着した瞬間元気よく腹を鳴らし、撃沈した。

ようやく大人しくなった日向と向かい合って座り、少し遅い夕飯を食べた。



「蜜森さんって左利きなんですか?」



口の端に米粒をつけた状態で、日向が不意に聞いてきた。



「いや? もとは右利きだから、右利き寄りの両利きってとこ?」

「へー! どっちでも箸持てるってすごいですね!」

「いや、慣れれば誰でもできるようになるって」

「そうですか? じゃあ俺も?」

「練習すればな」



興味深そうに頷きながら、日向は再び白飯を口いっぱいにかきこんだ。



「……あ! ってことは、アレですか?」

「なにですか?」

「両利きってことは、左手でもサーブとかスパイク打てるんすか?」



空になった茶碗を置いて言った日向の言葉に、俺はぴたりと箸を止めた。

言われてみればそうだ。練習では元々の利き手である右手、オフの時間帯はそれを休めるために左手を使うと決めていたので、考えたこともなかった。箸もペンも問題なく使えるなら、左手を練習で使うことも決して難しくはないのではないか?



「……いいこと聞いたわ」

「へっ?」

「ありがとな、日向」

「あ……はい。どういたしまして?」



俺は、なんのことか分からずに首を傾げながら返事をする日向を、にやけた顔で見つめた。





続く
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