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□みんなでやればきっと楽しい、いつも楽しい
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夏も終わりに近い、そんなある日のこと。
「はぁ!? プール掃除だぁ!?」
木葉先輩が露骨に嫌そうな様子で声を上げ、それに京治がげんなりした様子で「はい」と返事した。
「プール掃除って、どっかの業者がやるんじゃねぇの?」
「いつもはそうなんですが……校長先生からじきじきにお達しがありまして」
「校長からのお達しって……」
スタメン全員とマネージャーの視線が、並んで立っている俺と光太郎さんに向けられた。
「ひょっとして、こないだの壁ドンの件?」
「他に理由があると思う?」
「それしか思い浮かばないから一応聞いたんだよ」
「いや、待てお前ら。あれを壁ドンとか、一昔前に流行った乙女がキュンとする行為になぞらえて言うのはどうかと思うぞ!」
小見先輩が体育館のある場所を指さして言った。
そこには、大きな穴があいた跡があった。不要な木材などをかき集めてなんとか補修はしたのだが、いかんせん素人がやったためにとても目立つ。
その穴ができてしまった経緯は、非常に単純だった。左手でスパイクの練習をしていたときに光太郎さんがアドバイスをくれて、「これはいけるかも」などと思い調子に乗ってしまった結果、というわけだ。
「つまり、アレの不始末を俺らで負うはめになったというわけだな?」
「そういうことです」
「…………」
鷲尾先輩の問いに京治が頷いて言うと、再び全員の恨みがこもった視線が俺と光太郎さんに向けられた。だが、その意味が分からず、俺は首を傾げた。光太郎さんも同じなのか、へらへら笑っている。
「どーしたお前ら。プール掃除だぞ、プール掃除! めっちゃ楽しそうじゃん。な? 姫野」
「そっスね」
「ちょっとお前らそこになおれ!!」
怒っているのは木葉先輩と小見先輩だけで、他の人たちは呆れた様子で傍観していた。
「うちのプール、どんだけ広いと思ってんだよ!?」
「大丈夫大丈夫。みんなでやれば楽しいしすぐ終わるって!」
「楽しいわけあるか!」
「あとすみません。やるように指示されたのはスタメンだけです」
「……は!?」
「いや無茶言うなよ! 1日かかるだろ!」
「っていうか、1日で終わるかなー?」
怒りをあらわにしていた木葉先輩と小見先輩も、白福さんの言葉を聞いて他の面々と同じくげんなりして肩を落とした。
それもそのはずだ。運動に力を入れている我らが梟谷学園高校らしく、その設備は非常に充実していた。問題のプールは、公式の競技基準に照らし合わせて設計された本格的な造りになっている。具体的には――同じクラスの水泳部の奴から聞いた話によれば――長さ約50メートル、幅25メートル、深さ2メートルだとのこと。
「基礎練だと思ってやれば――」
「お前はいいかもしれねぇけどな!?」
肩を落としていた木葉先輩が勢いよく顔を上げて否定するも、すぐにまた俯いてしまった。