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□HはハングリーのH
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黒尾さんは、他のみんなと合流するため一足先に体育館へ戻っていった。



「あ、これから模擬試合するから。そこのビブス、運んどいてくれ」

「分かりました」



言われたとおり、乱雑に積み重なって入れてあるビブスをかごごと持って、自分も体育館に戻った。持ち手がついていなかったので、何度か落としそうになった。

体育館では、基礎練習の最中だった。ビブスのかごを隅に置いて、まずは使えるタオルの数を確認。すぐに配れるように移動させておこうと考えた。



「よし、集合!」



直井コーチの号令で、部員たちが駆け足で一斉に集まってくる。全員がそろったところで、コーチの指示が飛ぶ。タオルも飛ぶ。転んでしまった。慌てて拾い集める。

黒尾さんの言っていたとおり、次は模擬試合をするらしい。ビブスのかごを移動させる。足が滑って、床に背中から着地。ビブスが散らかる。

コーチの指示はまだ続く。チーム分けの段階で、監督の助言が入ったようだ。ボールがいっぱいに入ったキャスター付きのかごも移動させておかなくては。手前でつんのめってかごにぶつかった。かごが倒れそうになってボールがこぼれ落ちて転がっていく。



「コーチ……ちょっと待ってもらっていいですか」



転がったボールをかごに戻していると、誰かがずんずんと近づいてくる足音。



「お前さっきからなにやってんだ!」

「ぶぎゃっ」



頭に空手チョップを食らった。あれ、初期では格闘タイプじゃなくてノーマルタイプの技だったそうですよ。なんか色々理不尽。

患部を押さえながら振り返ると、仁王立ちしている3年生、夜久さんの姿が。身長は僕と同じくらいなのに、迫力はものすごいですな。



「コーチの指示聞いてるときに! タオル落としたりビブスぶちまけたり! 集中できねーだろうが!」

「ごめんなさい」



すぐさま謝る態勢に。その場に正座。これが一番、謝罪の気持ちが伝わりやすい姿勢。



「要領悪すぎんだよ! 少しは優先順位考えて動け!」

「はい、気をつけます」



効果音でいうなら、ガミガミといった感じで説教する夜久さんの目を見つめ、反論はせずに大人しく聞く。ときどき相槌。黙りこんでいると、かえって火に油だ。

背後で呆然とする部員の端で、笑いをこらえている黒尾さんが見えたが、とにかく夜久さんの怒りがおさまるまでそのまま待った。

初日に完璧に仕事をこなすのは無理だとしても、いきなりお説教になるのはさすがにまずい。切り替えていかなければ。

模擬試合が終わると、休憩時間に入った。

タオルとドリンクを配り、休憩が終ったところで回収。ドリンクボトルをひっくりかえして中身をぶちまけるなんて、最悪な状況は起こってませんから。期待したのにって? 残念でした。
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