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□TはサンクスのT
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みなさん、修羅場という言葉はご存じですか。
シチュエーションは色々ありますが、恋愛にまつわるものが一番よく聞かれるのではないでしょうか。
つい先日、そんなありきたりな修羅場に巻き込まれた僕のお話を聞いて下さい。
時は、昼休み。
いつものように部室でみんなと楽しい楽しいランチタイムを満喫しようと向かっていた途中、女子に声をかけられた。
「蜜森くんよね? 男バレのマネージャーの」
いえ、正しくはマネージャー見習いです。と、返事する前に、目の前に突き出される淡いピンク色の封筒。
「これ、渡してくれないかな。黒尾くんに」
ほとんど条件反射で受け取る。言われて、これは例のよくあるヤツかと、空腹で一時停止しかけていた頭を必死に動かして考える。
封筒の表裏を確認。どちらにも、なにも書かれていない。
「ねぇ、聞いてた?」
「はい。あの、失礼ですがお名前をうかがっても?」
「私じゃないから、それ」
「え?」
「後輩が書いたやつだから」
つまり、私の名前を聞いても無意味だとおっしゃりたいわけですね。
ああ。それは、一番面倒なパターンだ。
「その後輩の方のお名前は?」
「なんでそんなこと聞くのよ」
「どこにもお名前が書いてなかったので」
「中に書いてあるかもしれないじゃない」
「それは、確認されましたか?」
「してないけど。なに、名前書いてなかったらいけないわけ?」
「はい。だって、怖いじゃないですか」
都合の悪い部分に触れられて若干いらついていた様子の女子――黒尾くんと呼んでいたから、おそらく3年生だ――は、こちらの言葉を聞いて表情を消した。
「は? なに言ってんの?」
「誰からなのか分からない手紙もらって、先輩は嬉しいですか?」
「うっさいわね! いいから、あんたは黙って渡してくれりゃいいのよ!」
「ごめんなさい。それは無理です」
「なんでよ!」
「部員の健康管理も大事な仕事ですから」
「……っその手紙をもらったら、健康を害されるとでも言うの?」
「健康というか、気分の問題ですよ」
女子が奥歯を噛みしめ、目を見開く。般若によく似た顔。わあ、怖い。でも、お姉ちゃんの方が怖いかな。