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□研磨さんの場合
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新しく入ったマネージャーは、変な子だった。

男子でマネージャーをやりたいなんて、その時点で相当変わっていると思う。おまけに、夜久くんよりも背が低くて、よく目を細めてとろけたような笑顔を浮かべている。

仕事に関しては、かなり優秀。ドリンクは1人1人に合わせて濃さを調節しているし、洗濯したタオルはふわふわで使い心地がいい。部室はいつも綺麗に整理整頓されていて、なにがどこにあるのか一目で分かる。練習中も、ネットがたるんだらすぐに直してくれるし、ボール拾いも早い。

の、だけれど、毎日なにかしらドジをやらかすせいでプラマイゼロになっている気がしないでもない。この前なんて、ケガ人用の氷水が入ったバケツをひっくり返して床を水浸しにしていたし。叱り役のクロと夜久くんと虎が同時に怒鳴り声を上げたのは、あれが初めてだった。



「どうぞ、研磨さん」

「……ありがと」



それでも、落ち込んで仕事が手につかなくなる、なんてことはなく。叱られ終わったあとはけろっとしていて笑顔さえ浮かべている。人との距離感を大事にし、必要以上に絡んでこない。それが俺にとってはありがたかった。



***



宮城での合宿の日、俺と風は2人そろって迷子になった。俺はいつものようにゲームをしながら歩いていて、風はその俺の背中について歩いていたせいだった。

曰く、「研磨さんがプリンに見えてきて、おいしそうだったので」とのこと。あと一歩でいつかの虎みたく食べられるところだったなんて。そろそろ髪を染めなおすべきかと本気で考えた。

クロに迎えを電話で頼んで――怒るより呆れていた――待っている間、風に負けず劣らず変わった子と会った。

オレンジ色の派手な髪をした、背丈も同じくらいの子。名前は、日向翔陽。人懐っこくて、こちらがゲームをやっていても構わず話しかけてくる。ここでも気を回してくれて、された質問にはほぼ風が答えてくれた。

別れるときに、「またね」なんて声をかけたが、深い意味はない。烏野高校のバレー部員なら、練習試合で顔を合わせるだろうと思ってのことだ。

クロに連れられてみんなと合流した後は、すぐに練習に入った。

合宿だけにみっちりと詰め込まれた練習メニューに、俺はもちろん他の部員たちもぐったりしていた。練習試合の前の晩、さっさと夕食を済ませて早く休みたいとほとんどの部員が思っていたに違いなかった。

食堂に入った瞬間、まず犬岡が奇声を上げた。それに虎とリエーフも続いた。うるさ。
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