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□凶器、それとも狂気?
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夏休みに入って行われた4校合同の合宿は、とても充実した内容だった。指を数本骨折さえしなければ、もっと充実していただろうけれど。
そして、合宿の成果か、夏休みが明けてすぐにあった春高予選は危なげなく突破して、本戦出場を決めた。俺が貢献できたことはあまりなかったけれど、サービスエースを数回決められたことは、自分の中ではかなり大きかった。まだ胸を張れるほどではないが、サーブは得意な動作といえるようになってきたように思う。
本戦に向けて練習をしていたある日、俺は現主将の小金井先輩に怒られていた。
「だーかーらぁ、言ったよな? 同じ場所でサーブ練すんなって。俺言ったよな? なぁ?」
「すみませんっス。つい熱中して」
「こないだ校長からも注意されたばっかなんだっつーの。いい加減にしろよお前」
ちゃんと補修しとけ、と言って、小金井先輩は立ち去っていった。俺の真後ろの壁―—大きくへこんだ箇所を指して。
試合ではオーソドックスなサーブであるフローターサーブを打てるようになってから、確実に身につくようにと毎日練習していた。そこで、同じ場所でやり続けるとボールが当たる壁がへこんできてしまうという問題が発生するようになり、「サーブ練するときは一回ごとに場所を移動すること」と指示されていたのだ。今回はそれをつい忘れて、力を込めて打った瞬間にボールが壁に軽くめりこんでしまった。
「それにしたって力みすぎ」
ガムテープを持ってきてくれた京治が、ついでだからとちょうどいい長さに切って渡してくれて、俺はそれをへこんだ壁に貼りつけた。
「フローターサーブはもっとやんわり打たないと失敗するよ」
「でもさ、ちょっと思ったわけ。ジャンプサーブ並みの威力出せたら強くねぇかなって」
「ちょっとなに言ってんのか分かんない」
京治が呆れたように目を細めて言った。
ジャンプサーブは間違いなく玄人のサーブである。できるに越したことはないのだけれど、俺のような素人には難易度が高い。まず、適切なトスを上げるところから。
「姫野お前、ジャンプサーブやればいいじゃん!」
人の考えを見透かしたのか否か、光太郎さんが近寄ってきて腰に手を当てた格好で自信満々にそう言った。俺と京治は言葉を失い、固まった。
「……すみません、木兎さん。話が読めないんですが」
「ん? だからさ、姫野みたいに力強いヤツがジャンプサーブしたらぜってー強いって」
「そうでしょうね。うまくできたらの話ですけど」
「そもそもやり方分かんないっス」
「大丈夫大丈夫! 俺が教えてやるって!」
満面の笑みでそう言った光太郎さんは、後輩の指導をしていた小金井先輩のところに走っていった。
「はぁー!? お前なに言ってんだよ!? 馬鹿か!?」
小金井先輩はそう言った後、こちらを向いて睨んできた。俺から「やりたいと言い出した」わけではないのだが。
光太郎さんは謎のやる気をもって、小金井先輩と監督その他部員たちを説得して場所を空けてもらい、なおかつフィールドまで整えてくれた。どこに当たってもいいように、ネットを挟んだ反対側にはマットが隙間なく設置されている。
「よぉーし、準備完了! いつでもいいぞ姫野!」
「…………」
救いを求めるように京治を見るも、奴は首を横に振るだけだった。確かにここまでやってもらっておきながら、「できません」では済まされない。てきとうにやって失敗して、「やっぱ無理だ」と思ってもらうようにすればいいのか。