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□ドーナツの穴は誰が作った
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テストまで1週間を切っている。

教科書1冊を広げるだけで手軽にできる暗記物が多い教科は順調だが、苦手とする英語や数学にもいい加減本腰を入れて取り組まないといけない。



「手伝おうか」

「なにを?」

「テスト勉強。英語と数学なら教えられるけど」

「是非」



京治の申し出に即答し、さっそく今日の放課後にうちで一緒に勉強する約束をした。途中であそこに寄ってアレを仕入れてこよう、などと考え、本来の目的そっちのけで楽しみが増してきた。

そして、放課後。授業が終わって京治と合流し、アパートに案内した。



「ひとり暮らししてたんだ?」

「言ってなかったっけ?」

「初耳」



実はそうだったんだよ、と言い、階段を上がって二階の真ん中あたりの部屋の前で立ち止まって、鍵を使ってドアを開けた。



「狭いけどどうぞ」

「お邪魔します」



京治を先に中に入れて、俺はその後に続いた。

玄関から上がってすぐの左手にトイレがあり、その奥にキッチン台と冷蔵庫が並んでいる。反対側―—玄関から入って2、3歩進んだ右手には、洗面所兼脱衣所につながるドアがある。それらを通り過ぎた先が寝室を兼ねた部屋になっていて、中心に長方形の小テーブル、右の隅にたたんだ布団が置いてある。

俺はテーブルの中央に、道中に仕入れたドーナツの箱を置いた。そして、冷蔵庫から牛乳を出して2つのコップに注ぎ、それもテーブルに持っていった。



「まあ好きにやってちょうだい」



そう言って箱を開けた。中を見た瞬間、京治の眉が一瞬だけ動いたように見えた。



「……おかしいな。こんなにあるのに2種類しかないように見える」

「そのとおりだよ」



箱に詰まったドーナツは、少しごつごつしたような表面の、濃いきつね色をしたオールドファッション4個と、それより薄い茶色の肌に透明の膜のようなものでコーティングされたハニーディップが4個の計8個だ。シンプルすぎてあえて買わないという意見が多い中、俺の中での好きなドーナツランキングのトップと第3位である。ちなみに、2位はシュガーレイズドなのだが、勉強しながら食べるには粉砂糖が厄介だと考え、泣く泣く諦めた。



「オールドファッションは生地の密度が高いからちょっと飽きやすいんだけど、そしたらこっちのふわふわハニーディップを食うんだよ」

「なるほど」



京治は若干遠い目をしながら頷いていた。俺はさっそく1個目のオールドファッションを取ってかじりつき、それをくわえたまま鞄を開けて勉強道具を取り出した。一番苦手な英語は後にして、まずは数学からにした。



「2次関数なんて滅べばいいと思う」

「基本をおさえていればそんなに難しくないだろ」

「おさえていればな」

「…………」



赤葦先生に教わりながら二次関数の基本をおさらいし、半ば理解できたところで問題集にとりかかった。さすがというべきか、教え方がうまい。つまずいたときは教えてもらいながら進め、1時間ほど経過したところで一息つくことにした。
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