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□マンガの主人公になった気分で
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4月。
俺は単位を落とすことなく無事に進級し、2年生としての1年間が始まった。我らが男子バレー部は、全運動部の中でも一番の好成績を叩き出しているところから、入部希望者はかなり多い。昨年俺が入部したときも――後に練習についていけなくなって退部した者が多数いたが――かなりの大所帯だった。
今年はどれくらい、どんな新入生がやってくるのか。というか、当たり前だが彼らからしてみれば、俺は1つ上の先輩になるのか。
「信じられん」
「なにが? 早々にそんなケガをしたこと? いつものことだろ」
「お前は早々に辛辣だな」
入学式後の部活見学が始まる直前、俺たちはすでに練習を始めていた。スパイクの練習3発目で小指の骨を折ってしまったのは、間違いなく「後輩がまもなくやってくる」と、浮足立って力を込めすぎたせいだろう。あるいは、8という縁起が良さそうな背番号を新たに与えられたことで舞い上がっていたせいか。ひとまず、呆れた目つきの京治の言葉はてきとうに受け流しておいた。
新入生が入れ替わり立ち代わり見学に訪れるという今までにない状況での練習を乗り越えて――ほとんど光太郎さんの独壇場だったから特に問題はなかった――入学式から1週間後の、新入部員たちにとって初の部活の日。練習着ではなく学校指定の運動着を身につけた彼らを見ていると、じわじわと懐かしさがこみ上げてくるようだった。
「でけーのいたなぁ。尾長だっけ」
「小学校からの経験者らしい。たぶんだけど、MBになるんじゃない」
「MB……」
新入生たちが入部試験をしている傍らで京治と雑談していると、ふと思った。
3年生の鷲尾先輩、新1年生の尾長、そして俺。みんな同じMB(おそらくは)。
「おかしくね?」
「否定はしない」
鷲尾先輩はもちろん、尾長は間違いなく190センチ台だろう。一方の俺は、去年より2センチ伸びたが、それでも180センチにすらギリギリ届かない。
「凪都の場合はさ、身長伸ばすより強度を上げた方がいいんじゃない」
「なに、強度って」
「お前の持ってる馬鹿力を最大限に生かすには、縦より横。伸ばすより丈夫にした方がいいと思う」
「知ってるよ。筋肉とか骨とかにいい栄養は積極的にとるようにはしてるし」
「へー。そういえば、最近あんまり大ケガっていうほどのケガしてないな」
「そりゃ、そんなんしょっちゅうしてらんねぇ……つーか、昔も今もそんなに大ケガしてなかっただろ?」
「自覚ないのか」
「ないよ。1週間以内で治るケガなんて大ケガに入らねぇじゃん」
「……そうだな」
京治は深いため息をついて、レシーブ練習をする他の2年生の列に入った。俺もその後を追って、最後尾についた。
思い返してみれば、初めて骨折したのはちょうど1年前のGWの合宿での新人戦のときだ。今年も同じ段取りなら、あと1ヶ月もたたないうちにそれが行なわれるはずだ。
新入生がメインだろうから、自分の出番があるかは分からない。けれど、いざというときに任せられるような存在ではありたい。それにはやはり、この有り余る力を、必要なときに必要なだけ引き出せるようになることが大前提だろう。
「必要なときに必要なだけ……」
ぽつりと独り言をもらしながら、自分の手を見つめた。
新人戦まであと約1ヶ月。できる限りのことはしよう、と決意を込めて、拳を握った。