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□英語だとアームレスリング
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GWの合宿が終わってからも、さらなるステージアップのため練習漬けの生活を送っていた。そんな今日、俺は究極の選択を迫られていた。

時は、昼休み。場所は、購買前。プレミアムカレーパンかツナマヨコッペパンか。それが問題だ。



「両方買えば」

「それじゃあ栄養偏るだろ」

「パンで済まそうとしている時点で偏ってるけど」



すでに昼飯を手に入れた京治は、真剣に悩んでいる俺を呆れた目つきで見ていた。

カレーはつい一昨日、レトルトだが夕飯に食べた。だが、ここのカレーパンはプレミアムと名がついているとおり、サイズが大きくて、中身も具がごろごろ入っていて、それでいて学生の身分でも優しめの250円という価格設定。一方のツナマヨコッペパンは、ボリューミーでこちらも具だくさん。粗みじん切りされた玉ねぎがアクセントになっていて、1個でも満足できるほど。値段は165円。これは迷う。



「ヘイヘイヘーイ! そこにいたか姫野ー!」



プレミアムカレーパン側に天秤が傾きかけてきたとき、背後から呼ばれて振り返った。声の主はいわずもがな光太郎さんで、快活な笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。



「お疲れ様っス。なにかご用――」

「俺と腕相撲してくれ!」



瞬間、俺は固まった。隣にいた京治も同じように、目を見開いて微動だにしなかった。



「……木兎さん、あなた腕粉砕されたいんですか?」

「いや、そこまでじゃ……なくもねぇかもしんねーけど」



真面目な顔で光太郎さんに詰め寄る京治を止めるも、自信はなかったので腕を軽く引くだけにとどめた。

確かに、誰かと腕相撲などやった覚えがない。なぜなら、幼少期からこの馬鹿力の扱いに自他共に悩まされていて、それをしてみようなどと言ってくる者は誰一人いなかったから。



「そもそも、なぜ急に腕相撲なんですか?」

「おう、よくぞ聞いてくれたな赤葦。これだよ」



光太郎さんはブレザーのポケットから、くしゃくしゃに丸まったチラシを出して広げて見せてきた。それは、この学校の最寄り駅近くにあるラーメン店のチラシだった。よくある割引クーポン付きの何の変哲もない宣伝チラシだったが、光太郎さんは隅の方に書いてあるキャンペーンについての文章を指した。



「えーっと……? 「店長と腕相撲で勝負☆ 勝った人にはチャーシューを好きなだけ無料トッピング! ※ラーメンをご注文の方に限ります」……へー。チャーシューを好きなだけってすごいっスね」

「だろ? けどさ、ここの店長ってすっげー腕ムキムキなんだよ。前はプロレスラーやってたらしくてさぁ。で、ちょー力が強い姫野と勝負して、勝てたらこっちもいけんじゃねーかと思ってな!」

「あー。なるほど」

「なるほどじゃない」



京治が納得する俺の肩を叩いた。

自分の体さえも耐えられなくてよく故障するような謎の怪力の持ち主相手に、腕相撲をしようなどという考えに至れるとは。やはり木兎光太郎という人は、一般人とは次元が違う。



「とりあえず飯食ってからでもいいっスか」

「おう、もちろんいいぞ。腹が減っては戦はできぬっていうしな!」

「あともう1つ」



京治が「ちょ――」と言って止めようとしたのを遮って、もう1つの条件を出した。
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