鬼滅小説
□参
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鱗滝さんは、意外にもあっさり弟子入りすることを許可してくれた。
山のあちこちに仕掛けられた罠をかいくぐって小屋まで戻る、という修行は、障害物競争みたいでむしろ楽しかった。異様に薄い空気には、初めの頃こそ苦しくてつらかったが、慣れればなんてことはなかった。
だが。
「僕、向いてない気がする」
「なに甘えたこと言ってんだ、一本取られたくらいで」
「一本じゃない、これで合計十本」
「義勇なんて二十本以上取られてるぞ」
「…………」
鬼狩りとして本質である刀――今は修行中の身なので木刀を使っているが――の稽古では、錆兎から一本も取れないままだ。
十連敗もすれば気落ちして当然、かと思いきや、錆兎の言葉に驚いて思わず義勇の方を見る。苦いものを口にしたような、悔しそうな顔をした義勇がいた。
「……錆兎が本気でくるから」
「甘えたこと言うな。鬼相手に手加減なんてしてたら死ぬぞ。ほら、もう一本だ」
「錆兎、そろそろ休ませてやったら?」
「ばーか。こんな調子じゃ、いつまでたっても強くなれないぞ」
それは嫌だ。大きく息を吐いて、痛む頭を振るい、立ち上がって木刀を構える。結果は……同じだったけれど。
そして、とうとうその日がやってきた。
「人には得手不得手というものがある」
錆兎、義勇の二人から一本もとれないまま時間ばかりが過ぎた。見かねたらしい師匠の鱗滝さんが、二人きりで向かい合って座り、語りだした。
頭の血が一気に下がるのを感じた。血の気が引く、というのはこういう感覚なのだと知った。
修行を始めてからというもの、特に錆兎には散々言われてきたことだ。お前は向いていないのではないか、と。
「……僕……いや、俺は……鬼狩りには、なれないということでしょうか」
「今のまま、漠然と修行を続けるのであればな」
「……へ?」
鬼の頸を狩る。それを成し遂げた自分の姿を想像できるか。
続けてそう問われ、顔を俯け考える。
鬼。体が自分の何倍も大きくて、牙も爪も鋭くて、獰猛で。そんな奴と戦い、頸を斬り落とす自分――だめだ。ちっとも思い浮かばない。
つまりは、そこなのだろう。
「……修行が足りないということですか?」
鱗滝さんが小さくため息をついた。そして、人差し指で俺の胸を軽く突いた。