鬼滅小説


□閑話その一
1ページ/2ページ



朝。

昨日の修行の疲れが抜けきっていないせいか、ぼんやりする頭で顔を洗って身支度を整える。



「…………」

「……? なんだ?」



顔を拭いて見上げると、寝癖を直して髪を整えている義勇が目に入り、じっと見つめる。

今更だが、義勇も錆兎も髪が長めだ。そして、錆兎はそのままだが、義勇はこうして襟足の辺りで一つに縛ってまとめている。その差はなんだろう。



「義勇はどうして髪縛ってるんだ?」

「これは……姉さんに教わったんだ。ちゃんとこうしてまとめておくと整って見えるからって……」



覇気がない言い方で、しかも顔を俯き気味に答える義勇。亡くなった姉のことを思い出させてしまったようだ。



「そっか……確かにな。すっごく似合ってるぞ!」

「……ありがと」



嬉しそうに笑みを浮かべる義勇。立ち直らせるのに成功したようなので、視線を錆兎に移す。



「錆兎は縛らないんだな」

「ん? ああ。そこまで長くないしな」

「そうか?……よーし」



義勇から予備の髪紐を借りて、錆兎の髪をいじってみた。



「できた!……ぶふっ」



頭の上の髪をかき集めて縛ってみた。角のように、ちょこんと縛った一束の髪が垂れている。

自分でやっておきながら、思わず噴きだした。



「おい! 人の髪で遊ぶな!」

「あー! とるなよ。せっかく縛ったのにぃ」

「とるに決まってるだろ、こんなの! 稽古に集中できないだろ!」

「いや、結構似合ってたぞ。錆兎」

「義勇までなにを言ってるんだ!」



怒った錆兎が縛った髪をほどき、まとめていた髪紐を義勇に投げ返した。

まぁ、確かに。錆兎はこの長さで、縛らずに垂らしたままの方が似合っているだろうな。



「うーん……俺も伸ばそうかな」

「なんで?」

「だって、なんか俺だけ仲間外れみたいだし」

「別に髪型に仲間外れもなにもないだろ。っていうか、お前が髪伸ばしたらもっと女みたいになっちまうぞ」

「げっ。それはやだ……けどなぁ」



以前、鱗滝さんと共に麓の町まで買い出しに出たときに、ある店の人に「お嬢ちゃん」と呼ばれたのを思い出す。苦々しい思い出だ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ