鬼滅小説
□閑話その一
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朝。
昨日の修行の疲れが抜けきっていないせいか、ぼんやりする頭で顔を洗って身支度を整える。
「…………」
「……? なんだ?」
顔を拭いて見上げると、寝癖を直して髪を整えている義勇が目に入り、じっと見つめる。
今更だが、義勇も錆兎も髪が長めだ。そして、錆兎はそのままだが、義勇はこうして襟足の辺りで一つに縛ってまとめている。その差はなんだろう。
「義勇はどうして髪縛ってるんだ?」
「これは……姉さんに教わったんだ。ちゃんとこうしてまとめておくと整って見えるからって……」
覇気がない言い方で、しかも顔を俯き気味に答える義勇。亡くなった姉のことを思い出させてしまったようだ。
「そっか……確かにな。すっごく似合ってるぞ!」
「……ありがと」
嬉しそうに笑みを浮かべる義勇。立ち直らせるのに成功したようなので、視線を錆兎に移す。
「錆兎は縛らないんだな」
「ん? ああ。そこまで長くないしな」
「そうか?……よーし」
義勇から予備の髪紐を借りて、錆兎の髪をいじってみた。
「できた!……ぶふっ」
頭の上の髪をかき集めて縛ってみた。角のように、ちょこんと縛った一束の髪が垂れている。
自分でやっておきながら、思わず噴きだした。
「おい! 人の髪で遊ぶな!」
「あー! とるなよ。せっかく縛ったのにぃ」
「とるに決まってるだろ、こんなの! 稽古に集中できないだろ!」
「いや、結構似合ってたぞ。錆兎」
「義勇までなにを言ってるんだ!」
怒った錆兎が縛った髪をほどき、まとめていた髪紐を義勇に投げ返した。
まぁ、確かに。錆兎はこの長さで、縛らずに垂らしたままの方が似合っているだろうな。
「うーん……俺も伸ばそうかな」
「なんで?」
「だって、なんか俺だけ仲間外れみたいだし」
「別に髪型に仲間外れもなにもないだろ。っていうか、お前が髪伸ばしたらもっと女みたいになっちまうぞ」
「げっ。それはやだ……けどなぁ」
以前、鱗滝さんと共に麓の町まで買い出しに出たときに、ある店の人に「お嬢ちゃん」と呼ばれたのを思い出す。苦々しい思い出だ。