鬼滅小説
□陸
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ふ、と目が覚めて、不思議な感覚がした。
目の前に広がるのは、見覚えのある木目の天井。そういえば、以前に三人で川の字で寝ていたとき、錆兎があの染みが幽霊の顔に見えないか、なんてふざけて言い出して、それから怪談話の押収が始まったことがあったな。
「……あ、れ……?」
ぼんやりする視界を無理矢理こじ開けるようにして、何度か意識的にまばたきをする。腕を使ってゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
小屋だ。かつて三人と師匠で暮らしていた、あの小屋に間違いない。
俺は、夢を見ていたのだろうか。
「ただいま戻りまし……」
ぼんやりする頭を振るって、記憶を辿ろうとしたとき、小屋の扉が開いて誰かが帰ってきた。
白い羽織に、黒い洋装の男。宍色の髪に、右頬に大きな傷跡がある。錆兎だ。
錆兎は、俺と目が合った瞬間目を見開かせて固まったが、すぐに復活してこちらに駆け寄ってきた。
「十羽……!」
「や、やあ錆兎。元気?」
「なにが元気だ馬鹿……っ! お前なぁ!」
顔を俯け、ぶるぶると怒りに身を震わせている様子の錆兎を見て、目の前で怒られるのは勘弁とばかりに耳を塞ぐ。
しかし、意外にも錆兎は怒鳴らずに、抱きついてきた。しかも、壊れ物を扱うかのように、そっと。
「急にぶっ倒れて! そのまま一月も眠ったままで! どれだけ心配したと思ってるんだ!」
「……え、ひ、一月?」
「そうだ! このままずっと眠ったままじゃないかって、気が気じゃなかったんだからな!」
そんなばかな。あれから一月も眠っていたなんて。
信じられない気持ちだったが、錆兎がそんなろくでもない嘘をつくわけがない。男なら、とか、男らしくしろ、とか口癖のように言うあの錆兎が、こんな泣きそうな声で叫ぶわけがない。
「……っごめん……ごめんな、錆兎」
「ったく……あとでちゃんと、鱗滝さんにも義勇にも謝っておけよ」
「分かった……って、義勇? 義勇は? 無事なのか?」
離れて苦笑した錆兎の顔が見えたところで、義勇の名前が出て慌てる。
「当たり前だ。というか、覚えてないのか?」
「……あの腕だらけの鬼から錆兎を助けたあたりから」
「そんな前からかよ」
錆兎は、呆れながらも俺の記憶を補うように話してくれた。