鬼滅小説


□閑話その三
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畑に立ち、ある一点を見つめる。

夏の間、大盛況だったキュウリ。蔓は細くてしわしわに、葉は茶色く枯れているのが目立つ。そろそろ潮時のようだ。



「ええと……今年もたくさんいただきました。どうもありがとう」



合掌し、お礼を述べてから枯れたキュウリの木を片付けはじめた。根っこまでとって、土をきれいにしておかないと、次にここに植えるものがうまく育たないことがある。新たな命をはぐくむために、欠かせない作業である。



「今度はなにを植えようかなぁ……やっぱ大根かな」

「いいね。きっとおいしいのが育つよ」

「そう? じゃ、頑張らないとな……えっ」



聞こえるはずのない、可愛らしい女の子の声に驚き、地面に向けていた顔を勢いよく上げる。

まだ無事で実もちらほら生っているナスの反対側、蔓や葉に隠れるように一人の少女がにこにこ笑いながら立っている。

躑躅色の着物を身につけ、頭に狐の面をつけている。唖然とするこちらに対し、少女は笑顔のまま近づいてきた。


「いつも楽しそうに作業してるね」

「へ? いつもって……」



見られていたのか? いや、それはおかしい。こんな人気のない狭霧山に、こんな少女が一人でやってくるなんて。近くに住んでいるというのはもっとありえない。



「私は真菰。鱗滝さんの弟子だったんだよ」

「……ああ! なんだ、そーゆーことか」



こちらが警戒していることに気づいたのか否か、少女は自己紹介をしてくれた。

同門ということなら、なるほど納得。住まいが麓の村だろうが離れた町だろうが、ここにいておかしなことはない。



「あ、えと、俺は水城十羽……待てよ。ってことはさ、君は俺の姉弟子ってこと?」

「そうなるね」



背丈は俺の方が高いから、姉というより妹のような感覚である。実際の家族には姉も妹もいなかったから、なんだか不思議な気持ちになる。



「十羽は体術が得意なんでしょ?」

「え? ああ。まぁ、そうだけど」

「私もだよ。刀を使うには、力が弱いから」

「そうなんだ。じゃ、俺たち気が合うかも……あ! そうだ!」



すくっと立ち上がった俺に、真菰は不思議そうに首を傾げる。



「なぁ、ちょっと分からないことがあるんだ。教えてくれ……じゃない。えっと、教えて下さい!」



せっかく体術が得意な姉弟子に出会えたのだから、教えを乞わない手はない。途中で敬語になおして、頭を下げた。

それを見た真菰は、にっこり笑顔で「いいよ」と言ってくれた。
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