鬼滅小説


□漆
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鬼殺隊に入隊してから、三年の月日が経った。

鎹鴉が運んでくる指示どおり、各地を走りまわって鬼を倒して。錆兎や義勇、他の隊員とも合同で任務にあたったりして。大きなケガをしたこともあったけど、なんとかまだ生きている。

そして、今日。一つの決意をもって、ある場所にやってきた。



「ごめんください」



数匹の蝶がひらひらと舞う屋敷。それを少し目で追ってから、声をかけた。すぐに、甲高い声の少女が駆け寄ってくる。



「すみません。こちら、花柱の胡蝶カナエ様のお屋敷で間違いないでしょうか」

「はい、そうですが……えっと」

「今日からお世話になります、水城十羽といいます」

「あ、はい! おうかがいしてます。ご案内しますねっ」



目を丸くした少女に案内され、屋敷の中へと入る。

そう。今日からここが、新しい職場となる。

鬼殺隊隊員の頂点に君臨する柱の一人、花柱・胡蝶カナエ様。彼女は柱として戦うだけでなく、自身の屋敷を改装して隊員専用の医療施設を運営していた。

そこは、小さな村にある仮の診療所のような小規模な施設ではなく、ありとあらゆる傷病に対応できるよう設備が整えられていた。治療だけでなく、回復した者が戦線に復帰するための機能回復訓練用の道場も設えているほどだ。

大ケガをして担ぎ込まれたとき、手厚い看護と手厳しくも理にかなった訓練を受け、ここで働きたいという気持ちが強くなった。



「え、無理でしょ。絶対に。無理に決まってる」



任務を共にした村田とかいう同期隊員に、ダメ元で鎹鴉を通じて直談判してみると告げたら、そんな返事をされた。

なぜ二度も無理だと言ったのか。それはひとえに、蝶屋敷で働いているのは女性のみ、異動したいなどと願い出た男子は前代未聞だからだ。

看護は女性特有の仕事、というのは分からなくはないが。力仕事がまったくないわけではないだろうに。薪割りはもちろん、食材調達だって量が多ければかなりの体力がいるはずだ。もしかしたら、男手を必要としているのになかなか手に入らず困っているのかもしれない。

無理ではない。希望はある。だめでも、とことん粘ってやる。

……ところが、だ。その熱意は無駄となった。

花柱様から、是が非でも来てほしい、という返事がきたのだ。男手を欲しがっている、という勘が、見事に当たったのかもしれない。



「失礼します。カナエ様、水城十羽さんがお見えです」



掃除が行き届いた廊下を進み、東側の突き当たりの部屋に辿りつく。少女がノックして扉を少し開け、挨拶をする。



「ありがとう。どうぞこちらに」



呼ばれて、中に入る。案内役の少女は一礼してから立ち去っていった。

診察室をかねているらしいその部屋には、主である胡蝶カナエ様ともう一人、その妹であるしのぶ様も傍らに控えていた。さらには、もう一人。

座るよう勧められた椅子の右隣に、青みがかった長い髪を横で二つに縛った女子が、真剣な面持ちでじっと前を向いて座っていた。



「どうぞ。座って」

「はい。失礼します」



一言断ってから、空いている椅子に座る。



「花柱の胡蝶カナエです。こちらは、妹であり補佐のしのぶ」



カナエ様と、続けてしのぶ様が軽く頭を下げる。



「この蝶屋敷で働きたいと願い出てくれたことを、とても嬉しく思います。神崎アオイさん、水城十羽さん。これからよろしくお願いしますね」

「はいっ!」



カナエ様に言われ、隣のアオイと呼ばれた女子とそろって返事をした。
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