鬼滅小説


□拾
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険しい山道を、えっちらおっちら、大きなかごを背に、上っていく。

かごの中身は、蝶屋敷で俺が育てた出来のいい野菜たち。今日は、カナエ様から外出許可をもらって、とある場所にやってきた。

相変わらず険しい道だが、毎日のように使っていたおかげか、少しも苦ではなかった。



「あ、いた。おーい! しーしょー!」



まもなくして、見覚えのありすぎる小屋が見えてきた。脇に薪を抱えた人物を見かけ、手を振りながら声をかける。

鬼殺隊に入隊が決まり、あそこを出てから六年たつ。つまり、会うのも六年ぶり。師匠の鱗滝さんである。



「ご無沙汰してます!」

「ああ。息災か」

「見てのとおりです」



腕を広げて笑顔で言ってみせると、相変わらずの天狗の面の隙間から、ほのかにふう、と苦笑したときのような息遣いが聞こえた。

持ってきた野菜を見せつつ、勧められはしなかったが遠慮せずに小屋に入らせてもらう。変わらない風景を見て、ほっと一息ついた。



「ん? そっちの部屋、なにか使ってるんですか?」



お茶をいれてくれている鱗滝さんに疑問をぶつけつつ、扉が閉めきられた部屋に近づき、開けてみた。

――女の子が、気持ちよさそうに眠っていた。

すぐに戸を閉める。



「……え?」

「弟子の妹だ」

「……弟子の妹? あ、新しい弟子とったんですか」

「ああ」



こぽぽ、と茶が湯飲みに注がれていく音だけが鳴る。多くを語ろうとしないのは、相変わらずか。

なぜ、弟子の妹がここにいる? そういう言い方をしたということは、つまりあの女の子は弟子ではないということだろう。なぜそんな子を同じ場所で生活させているのか。女の子本人が希望したとしても、気が散るからとか、決心が鈍るからとかいう理由で断るはずである。弟子本人が希望したとしたら、なおのことだ。そんなことを言えば、弟子入り自体を却下するに違いない。

並々ならない事情があるということは間違いないが、さっぱり思いつかない。



「義勇が柱になったことは聞いたか」

「あ、はい」



っていうかそれ、俺がお館様に意見を聞かれて進言したことなのだけれど。

あの柱合会議の結果、俺の意見が通って水柱・冨岡義勇とその補佐・錆兎が誕生したのだった。その件についても鱗滝さんと色々話がしたくて来たのだ。
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