鬼滅小説


□拾弐
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カナエ様の死から、一年がたつかたたないかという頃。



「しのぶ様、おめでとうございます!」

「ありがとうございます。これも、皆さんが支えてくれたおかげですよ」



みんなの中心で満面の笑みを浮かべているのは、しのぶ様だ。後頭部に大きな蝶の髪飾りをつけ、蝶の羽を模した羽織を着ている。カナエ様の形見の羽織だ。

今日をもって、彼女は蟲柱・胡蝶しのぶという称号を得た。

亡き姉の跡を継ぐ、という宣言どおり成し遂げたわけだが、一年弱という短期間で成し遂げたことはまさしく異例といえよう。

蝶屋敷の隊員、看護係の職員に祝福されて笑みを浮かべるしのぶ様は、完全に立ち直ったかのように見えるが、その胸中は本当にそうなのか分からない。



「大丈夫なのかなぁ、しのぶ様は……」



自身の仕事場である畑に戻りつつ、一度立ち上がって空を見上げながら呟いた。隣で収穫を手伝ってくれているカナヲが顔を上げる。



「カナエ様を失くした傷が、こんなに早く癒えるわけがないだろ? 色々無理してんじゃねぇのかなーって思って」

「…………」



カナヲは相変わらず無言で、黙々と赤く熟れたミニトマトを収穫している。

彼女にとっても、カナエ様は命の恩人であり、母であり、姉だった人だ。家族のように接してきた人が死に、その人に一番近い存在であるしのぶ様の悲しみを一番理解できているはずだ。

とはいえ、悲しんでばかりいられない。残された身としては、先に進む以外にないのだ。



「……そーいや、カナヲ。もうじき最終選別だろ。準備は大丈夫か?」



しゃがんで目線を合わせると、カナヲがわずかに頷いた。



「カナエ様……あーいや、今はしのぶ様か。あの方の継子のお前なら、俺が心配するまでもないだろうけど……腕がいっぱいある緑の体した異形の鬼には気をつけろよ」



首を傾げるカナヲを見て、苦笑する。

まぁ、カナヲは鱗滝さんの弟子ではないし、厄徐の面は持っていないので、奴に狙われる可能性は高くないだろうけど。

そういえば、炭治郎はどうしているだろうか。鱗滝さんが最後に出す、大岩を斬るという課題は達成できたのだろうか。錆兎が任務の合間に稽古を見てやっているようだから、問題はないと思うが。よほど炭治郎に剣の才能がない場合を除いて。



***



数日後、カナヲが見事に最終選別を無傷で通ったという知らせが入り、蝶屋敷ではまたお祝いムードに包まれた。

否、危険な戦いの場に身を投じるようになるわけだから、それは果たして祝い事としていいのか、個人的には非常に疑問を抱く部分ではあるが。

十日ほどして、カナヲの日輪刀が届けられて。さっそく彼女の鎹鴉が指令を運んできて、任務へと出かけていった。これからしばらくは、毎日姿を見られなくなってしまう。
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