呪術小説


□修行と戯れと
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虎杖が命を落とすきっかけになった、英集少年院での任務。やはりというべきか、呪術界上層部の保守層連中が仕組んだことだった。

規定上、存在自体が許されない虎杖を生かしておくことはありえないとして、悟さんが取りつけた「宿儺の指を全部食べてから秘匿死刑」という執行猶予の約束を反故にし、特級相当の呪霊と戦わせて処刑してやろうと企んだのだ。



「腐ってますね」

「腐ってるよ。腐って体がぐずぐずになっても平気でいるクソみたいな連中なんだよ。いや、クソそのものか」



相変わらず、上の連中に対する悟さんの言葉は辛辣を極めている。

そんなわけで、既存の情報どおり虎杖悠仁は死亡したことにして、盛大に匿うことになった。しかしそれも、9月にある京都の姉妹校との交流会までの話。



「交流会までには、悠仁に呪力操作の基礎を徹底的に叩きこむ。朔には、外に出られない悠仁の身の回りの世話に加えて、そっちの面でも手伝ってもらうから。分かってると思うけど、悠仁が生きてることは恵や野薔薇たちにばらさないようにね」

「了解です」



呪力操作の特訓においては、あまり役に立てるとは思えないが。しかし、未だできていない残り3つの術式開放のためのきっかけをつかめるかもしれないので、視点を変えて色々試してみるのはいいことだろう。

それはいいとして。

もちろんそのつもりだったけれど、あの2人に虎杖が生きていたことを隠したまま接するのは、なんというかいたたまれない。そして、実は生きていた、と真実を明らかにしたときにどうなるか、想像するだけでもしんどい。



「つーわけで、虎杖ちゃん。体動かそうぜ。1回死んだからなまってるだろ」

「1回死んだからなまってるってどういう理屈だよ。でもまぁ、そうかもな」



虎杖は片方の拳をもう片方の手のひらにぶつけて、やる気に満ちた不敵な笑みを浮かべた。

この地下室には、宿直室もとい悟さんのお泊り部屋だけではなく、体を動かすための広い空間もある。悟さんが、無理を言ったとか言ってないとかいう話だ。



「本気でいいのか?」

「そこはお手柔らかに、と言いたいとこだけどなー。もしオレちゃんが勝ったら、虎杖ちゃんに手伝ってほしいことがあるんだわ。だから負けらんねぇんで、本気でいくぞ」

「おーし。望むところだ!」



特に合図はなしに、試合開始となった。

虎杖は、強い。完全にケンカ慣れしているといった感じだ。洞察力、動体視力、その他諸々。肉弾戦で必要な能力はどれもトップクラスかもしれない。

だが、しかし。



「う……っ」

「!? 汐月っ!? ごめん、だいじょ……ぶぁ!?」



騙し討ちには、弱い。

本当はかすっただけだったけれど、拳が当たったと見せかけて腹を抱えてうずくまれば、虎杖はすぐに動揺する。そうして、試合中だということを忘れて自らこちらの懐に入ってきたところを、アッパーを打ちこんで叩きのめした。
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