DC小説
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「おはようございます、竜崎さん。ところで、もう朝食は召し上がりましたか?」
朝イチのうねりまくった髪のまま、インターホンに反応して出てみると、小鍋を両手で持った安室が立っていた。燕尾服を着ていたらパーフェクトだった、といえるくらいの満面の笑みを浮かべて。
つい先日、栄養失調で倒れて病院にかつぎこまれたときのことだ。
気づいたときは病院で、呆れた様子の安室がいた。
「びっくりしましたよ。なにかあったのかと思って慌てて帰ってみれば、あなたが倒れていたんですから……」
と、言いながら苦笑する彼の背後に般若の面が見えたのは、おそらく気のせいではない。
そして、病院から帰る道すがら、可能な限りは食事の差し入れをする、たまにでいいからポアロも利用してほしいと言い出したのだった。
この人は、なんだ。俺の父ちゃんか。
「これ、卵雑炊です。作りたてなので、すぐに食べられますよ。よかったらどうぞ」
「あーはい……っていうか、卵雑炊ってほぼほぼ病人食じゃあ?」
「あなた、ほぼ病人じゃないですか。それと……昨日は、またろくに寝てないんでしょう?」
「1、2時間は寝ましたよー」
「はは。それは寝たうちに入りません」
終始笑顔の安室。気にする様子もなく部屋に上がりこみ、持ってきた小鍋をコンロの上に置いて、てきとうに器を出し、中身をそこに盛った。つまり、食べろと。
白ごまときざみねぎが散らしてある、料亭で出てきてもおかしくなさそうな出来栄えだ。
「いただきまーす」
「どうぞ召し上がれ」
我が家にレンゲなんていうしゃれたものはないので、プラスチックのスプーンで食べる。冷まさずに、即行で一口。ちょうどいい熱さだった。温度まで計算して差し入れてくれたのだろうか。
「少し薄かったでしょうか?」
「いえいえー。白だしとめんつゆのコンビ技が冴えてて、とってもおいしいですー」
「……へぇ。一口で気づきましたか」
「ちょこっとですけど、グルメ系のコラム記事を書いたこともありますのでー」
「なるほど、よく分かりました。竜崎さんは仕事一筋なんですね」
「一筋ってほどではないですよー。まぁ、優先順位が1位であることは間違いないですけどねぇ」
「ちなみに、その優先順位に食事と睡眠を入れこむのは間違いですよ? それらは、人間が生きる上で最低限必要な活動であり、絶対的に優先すべき事項なんですから」
「俺の中では、4位と5位ですねー」
「……そうですか。2位がタバコで、3位がゲームですか?」
「わー。さすが、名探偵安室サン」
「全然嬉しくないですね」
そんなコントのようなやりとりをしつつ、何気に完食。本当に、お世辞抜きでうまかった。