DC小説
□X
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その後は、疲労のせいかよく覚えていない。どうやって帰ってきたのかさえも。
夜も遅いし、疲れたし、布団に直行した。久しぶりにたっぷり眠った。大発見だ。命の危険にさらされると、人は疲れて眠りを欲するようだ。
目が覚めたのは、朝の6時過ぎ。
携帯を見れば、何度か編集長から着信が入っていた。まずい。報告してから眠ればよかった。
すぐに出版社に向かおうと支度をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
あ、なんだろう。嫌な予感。否、いつも以上に。
「おはようございます、竜崎さん。昨日はぐっすり眠れましたか?」
しれっと、何事もなかったかのような、笑顔の安室がそこにいた。
ああ。馬鹿正直に出なければよかった。居留守を使うべきだった。
と、こちらが後悔しているのも構わず、安室は勝手に部屋に入り、ドアをしめ、人の体を乱暴に壁に押さえつけた。
「ぐえっ」
「……あなたは、なにを考えているんだ」
先ほどのにこやかな声とは一変して、低い、まさにドスのきいた声。
心当たりがありすぎて、言い訳をする余地がありません。
「人をまいて飛び出していったかと思えば、子どもたちと一緒にゴンドラに乗っていて。脱出したと思ったら、人になにも言わずに姿を消して」
「あー……すみませんー。くったくただったもので、うぎゃ」
「おまけに!」
肩をつかんでいる安室の手に力がこめられる。痛い。痛いって。壁についている左肩の背中側のあたりが痛すぎる。
腕を引っ張られ、来ていたシャツをまくられて、その痛みの部分があらわにされる。
「ケガをしたのに病院にもいかないなんて、一体どういうつもりですか」
「……それは別に、わざとではありませんよぉ。ケガをした自覚がなかったものですからー」
安室が患部をぶにぶにと押す。痛いから、ホントに。なんだろう、打撲か? 観覧車が転がったときに、どこかにぶつけたのだろうか。
しばらく見つめあっていたが、安室が折れて、大きなため息をついた。