DC小説
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見上げた屋敷。
壁に蔦が絡みついている。チビッ子軍団がお化け屋敷と言っていたのにもうなずける。
門を押し開けると、錆びた鉄らしい軋みの音を立てた。傍らに置いていたスポーツバッグを背負いなおす。
「どうぞ。お待ちしていましたよ」
屋敷の玄関の扉が開き、メガネをかけた線目の長身の男――沖矢が出てきた。
声をかけられたが、返事は会釈をしただけで済ませた。笑みを浮かべる沖矢に続いて、中へと入る。
自分のアパートの部屋へ帰って、即行で荷物をまとめて部屋を出、道中で沖矢――赤井に連絡をとった。わけは後で話すから、とにかくしばらくそちらに泊めてほしい、と。
よくもまぁ、そんな急な、かつ不躾な申し出を二つ返事で承諾してくれたものだ。赤井がおおらかで空気の読める人間でよかった。
「家主にも連絡済みです。空いている部屋は好きに使っていいという話なので、どうぞお好きにしてください。居候させていただいている僕が言うのもなんですが……」
「赤井サン」
部屋うんぬんの話は、いい。なんなら、ソファだろうと外の芝生の上だろうと、どこでも眠れる。
今はとにかく、猛烈に話がしたい。
「これ、嫉妬かなんかでしょうかねぇ」
「……はい?」
「安室サンが、あなたの名前を聞いて腹を立てているところを見るとー、なーんかどうにもこうにもいたたまれなくなっている別の自分がいるんですよー。なーに考えてんだろうなぁってしばらく見てても、それ以上たいした変化はないしー。わけ分かんなくて、混乱した安室サン置いて出てきちゃって……なーんなんですかねぇ、これってー」
ただ赤井に勝つことなのか。
そう聞いたとき、俺は否定の言葉を期待していた。
だから、否定はできない、と言わんばかりに引きつった表情の安室を見て、とてつもなくその場にいてはいけないという気がして、結果彼の引き止めを振り払ってここにきてしまったわけだ。
「……君とは、もう少しじっくり話をしてみたいと思っていた」
声を戻した赤井が、不敵な笑みを浮かべる。
「あせることはない。夜はまだまだ長いからな」
コーヒーをいれてくる、といって、赤井は姿を消した。
そのちょっとした気遣いに、なぜかほっとしている自分がいた。