小説

□Episode9
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その本との出会いが、僕の運命を変えた


Wそこにも、ネヴァジスタを探してる子供たちはたくさんいたW

本の名は、WNEVERSISTAW
僕の心に深い傷を残し、そして希望を与えた本だ。
その本を読み終えた時、大きな衝撃が走った。
心臓を握られたような感覚と共に、雷に打たれたように体が痺れた。

ーーこれは、僕の物語だ

そう思ったからだ。
僕の人生の挫折と、醜さと、愚かさがそのまま描かれていた。
まるで僕の全てを、見透かすようにして。
その本を与えてくれた、彼は言った。
ネヴァジスタは、とある学校の七不思議のひとつだと。
その呪われた本は、開く人物の物語を写し出すのだという。
そんな話、聞かされただけでは馬鹿馬鹿しいと疑いたくもなるだろう。
でも確かに、僕の人生を、僕の本質を、僕の物語を言い当てられたのだ。
こんな恐怖は無い。
物語の結末はこうだ。

W魔法の薬をのんで、ネヴァジスタに行ったW
Wたどりついたネヴァジスタで、いつまでも幸せに暮らしましたとさW

僕は尋ねた。
ネヴァジスタとは、一体どういう意味なのかと。
彼は答えた。
何もかもが時と共に形を変えていくこの世の中で、変わらず在り続けるもの。
それがネヴァジスタだと。
元々は、大人にならない場所やものを表す言葉だったらしい。
誰の胸にもある、変わらない想い。
僕にとってそれは、紛れもなくゼロへの想いだった。
いつ何時もゼロを信じ、ゼロに永遠を夢見ていた。
彼は言った。
ゼロは、ネヴァジスタに行こうとしているのではないかと。
僕の願いを叶える為に、『永遠のアイドル』として存在し続ける為に、自ら身を捧げたのではないかと。
喜びに、体が震えた。
これほど嬉しいことがあるだろうか。
それほど僕に献身し、僕の為に永遠をその手にしようとしたのだ。
しかし、彼は言った。

Wネヴァジスタに行くこと。それは、君が死ぬのと同じことW

永遠に変わらない為には、今の姿のまま命を絶つしかないのだと。

Wあなたは彼に望みすぎた。それがゼロを苦しめていたんだよW

今度は、恐怖で体が震えた。
僕のせいで、ゼロは自ら死を選んでしまったのかもしれない。
僕がゼロに、永遠を求めたせいで。

Wあなたは、ゼロを取り戻したいんでしょう?永遠など手に入れずとも、ネヴァジスタになんか行かずとも、そのままの君でよかったんだって、ただ隣にいてくれればそれでよかったんだって、そう伝えなければW

…そうだ。
ゼロがいなければ、なんの意味もない。
僕はただ、ゼロの輝く姿を、隣で見ていたかっただけなんだ。

ーーどうすれば、ゼロに伝えられる?

W簡単だよ。あなたが証明するんだ。ゼロほどのシンガーはいない。ゼロに勝るアイドルなんて、この世には存在しないのだと。この世界には、ゼロに憧れその伝説を超えようとする者が大勢いる。世間の人々もまた、彼らに夢の続きを託すことだろう。だけど、その期待を向けた彼らも、同じように夢の途中で姿を消してしまう。そして皆気付くんだ。あぁ、やはりゼロを超えるアイドルなんていない。ゼロが帰って来ることこそが、僕らの夢を永遠にすることなんだとW

その光景は、容易く想像できた。
世界中の人々が、ゼロの伝説の続きを待ち望む姿を。
ゼロアリーナのステージに再びゼロが立ち、人々の歓声に包まれていくその姿を。
彼は、その為にすべきことを教えてくれた。
でもそれは、僕が思っていた以上に、あまりに非情な計画だった。
僕は迷った。
そんなことをして、他人を不幸にしていいものかと。

W…そうだよね。ごめん、聞かなかったことにしてくれるかな。いくらなんでも、そこまでできないよね。これはとても危険なことだ。あなたが危険を犯してまで、取り戻す価値のあるものじゃないW

…え?
…何を言って…

W仕方ないよ。誰だって自分が可愛いんだ。あなたにとって、ゼロはその程度のものだったんでしょう?W

…違う…

W本当は、忘れてしまいたいと思っているんでしょう?たとえゼロが、あなたの為に死にかけているんだとしても…W

…違う!
ゼロは、僕にとって全てだ!
ゼロを取り戻す為なら、どんなことだってできる!
誰を不幸にしたって構わない!

W落ち着いて。ごめん、言いすぎたね。今、薬を持って来てあげるよW

彼から錠剤を受け取って、水で流し込む。
呼吸を整えようと息を荒げる僕の背中を、彼が優しく摩った。

Wあなたならきっとできるよ。でももし不安なら、誰かに手伝ってもらえばいい。あなたが直接手を汚す必要はないんだW

…どんな手を使ってでも、ゼロを取り戻してみせる!
だからどうか…僕を見捨てないで…

W大丈夫。ゼロは生きているよ。ゼロは、あなたを試しているんだ。自分の為に、あなたがどこまでしてくれるのかを。あなたがゼロを求める声を、世間がゼロを求める声を、もう一度彼に伝えるんだ。彼がネヴァジスタに行ってしまう、その前に…W

その日から、一片の迷いも無かった。
全ては、もう一度ゼロを取り戻す為にーー





電話が鳴った。
「…九条さん!」
聞こえてくるのは、僕が愛した息子の声だ。
ひどく取り乱した様子で、震えた声で…。
「…お聞きしたいことがあります…。五年前のことです…!」
その質問に、僕は口を開いた。
絶望の底に落とされた、彼の姿が目に浮かぶ。

ーーさぁ、仕上げにかかろう

この本が導くのは、果たして天国か地獄か。
それを知るのは、まだ少し、先の話だ。





Episode9





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