短編夢

□伝えるために
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「ね、土井先生?お願いします!」

「ダメだ、私でも許可せんぞ」

「土井先生まで…酷い!」

バタン、と大きな音を立てて戸を閉めて出て行った生徒に対して私はため息をついた

彼女…早乙女はもう6年生。
元気があって優秀な生徒で、就職先もすでに決まっており卒業もまじかである。
それなのに…今日はとんだわがままを言いに来たのだ。

″タソガレドキに行くので外出許可をください″

元気で素直すぎる彼女はどうも少し抜けている
…いや、子供っぽさが抜けないところがあると言ったほうが正しいのかもしれない。
他の理由ならば簡単に許可を出せたが、よりによってタソガレドキとは…安易な事で踏み込んでいい場所ではない
同じことを言って他の先生にも頼んだそうだが断られてしまったと言う。
そして最後に私の元へ訪れたらしい。
しかし私も、なんの理由もなしにそんな所への外出許可は出せない

理由を聞くと″秘密″と答えた彼女は
まだまだ子どもらしい幼い表情で笑っていた

「…全く…いったい何をしに行くんだか」

頭を抱えると同時に私は胃がキリキリと痛むのを感じた



ーーーーーーーーー



「…安藤先生も厚木先生も…
山田先生もシナ先生も…酷い、酷いよ!
ねぇ、伊作!どうすればいいの…!?」

「ぼ、僕に言われてもなぁ…」

所変わって医務室。伊作はとあるくのたまから
肩を掴まれ前後にぶんぶん揺さぶられていた。

「ううう!伊作まで…!
この後会う約束だってしてるのよ?」

「うーん…そうは言っても、外出許可が降りないんじゃ
どうしようもないだろう?
れいちゃん、今日は断るしか…」

「今日じゃなきゃダメなの!ね、伊作!
伊作からも誰か先生に言って…」

両手を合わせて擦りながら
片目を閉じて見つめるれいだが
伊作はポカンとした顔でれいの上を見ていた

「なんだ、外出許可もらえなかったの?」

ゆっくりれいが上を見上げると、
そこには見知った顔がこちらを見下ろしていた

「ざ…雑渡さん…お早いお着きで…」

苦笑いするれいに対して
「遅刻よりはいいでしょ?」と答えると彼は
頭をポンポンと軽く撫でてから顔を前に向けた

「やぁ伊作くん、久しぶりだね」

「お、お久しぶりです」

「で、早乙女れいちゃん?
外出届…どうするの?」

「うっ…ど、どうしましょうかね…?あはは…」

後ろ頭を掻きながら笑うれいに
雑渡昆奈門は少しだけ困った顔をする

「小松田くんに見つからず連れていくことも出来るけど…それだと私が悪者みたいになるだろう?」

「あ、雑渡さんでも悪者にはなりたくないんだ?」

れいがからかうように言うと
至って普通に答える

「伏木蔵くんに会いに来づらくなるからね」

「ひゅー、もはやお父さん!よっ、過保護!」

さらに追い討ちをかけるように煽りを入れると
雑渡昆奈門は踵を返して戸に手をかけた

「…もう帰るよ」

「嘘です、冗談です。すみませんでした」

そんな雑渡昆奈門の足元に抱き着くように縋るれいを見て、伊作は苦笑い

「ほら、じゃあもう一度頑張って
今度こそは外出許可貰ってきなさい」

「いい子だから、ね?」と付け加えて
顔を覗き込んでくる雑渡昆奈門にれいは
目を潤ませる

「あぁ、お父さん…
あなたの一言は勇気もくれるが絶望的だ…」

「帰るよ」

「嘘、嘘。お願いしますから雑渡昆奈門様
もう暫しお待ちを」

そして伊作は心の中で
いったい何の茶番を見せられているのだろうかとまた苦笑いした






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