短編夢
□かくれんぼ
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「どうも。お邪魔します」
医務室にて…その者は訪れる。
「わぁ…雑渡昆奈門さん…お久しぶりですぅ」
目を輝かせながら久々の再会に胸を踊らせているのは、一年ろ組の鶴町伏木蔵
「あれ、授業は?」と尋ねる雑渡昆奈門に、「今日一年生はお休みなんです」と答えると「なるほど」と一人納得したようだった。
「いやぁ、それにしても最近忙しかったから…本当に久しぶりだね」
図々しくもすぐにその場に腰を下ろして″おいで、おいで″と雑渡昆奈門が手招きをする。
それに対して伏木蔵はなんの戸惑いもなく、その誘導に素直に答えてスポッと胡座の中に座った。
「元気にしてたかい?」
「はい、元気にしてました」
ここからでは彼の表情はハッキリとは見えないが、ニコニコ笑う伏木蔵に心做しか笑っているような気がした。
前文の…″ここからでは″…というのはもちろん…忍びらしく″屋根裏″
板の隙間からじっと2人の微笑ましい様子を見守る私は決して変態なんかじゃ…
「…で、キミは今日もサボりかい?」
……するとふと、彼は真上にいる私の方を見て首を傾げる
「…っ…!!」
……見つかってしまった…!!
ガタガタガタッ
「うん…?」
伏木蔵は首を傾げて上からする物音に疑問を持つ。それに対して雑渡昆奈門はそんな彼の頭の上に顎を乗せ、一人薄く笑っていた。
「屋根裏の子ねずみが暴れてるようだね
…慌てて落っこちなきゃいいけど」
「…す、スリルとサスペンスぅー…」
伏木蔵は雑渡昆奈門の言い回しに本来の意味はわからなかったものの、いろんな妄想を膨らませて胸を踊らせる
…そんな中、私は慌てて屋根裏から脱出していた。
ーーーーーー
「……はぁあ…ビックリしたぁ…」
急いで屋根裏から出てきた為、
息は切らしているし、体中は埃まみれ
全くもって″最悪″…と、言いたいところだが…
「……でも、やっぱり…」
…あの人は私に気付いてくれる
その事が何故か少し嬉しくて、私は無意識に足取りが軽くなりそのまま教室へと戻る。
「えー…だからこの問題は…」
くのたま教室、私は山本シナ先生の授業中
私はそーっと…しれーっと、自分の席に着く
「…んー…じゃあ早乙女さんに解いてもらおうかしら」
「はーい」
適当な返事をしてそのまま黒板へと向かい、問題を解く。頭は悪いほうじゃないから授業なんて多少聞いていなくても大丈夫。
…それにほら、
「できました」
「はい、ありがとう。もう席に戻っていいわ」
つい先程まで授業をサボっていたというのに、シナ先生は怒るどころか気付きもしない。
先生としてどうなのだろうか…と考えたこともあったが、私はそれほど気配を消すのが得意なんだといい方向へと考えるようにしている。
忍たまで言うなれば三年は組の三反田数馬と同じような立ち位置だと思えば考えやすいだろう。
忍びとして存在を忘れられることは気配を消す事とほぼ同意。
悪いことではないのだけれど…
なんとなく…寂しかった。
まるで空気のように扱われるような日々に嫌気がさしていた。
そうして半ばいじけていた私は、どうせそこにいていなくてもわからないなら…と、ずっと前から授業をサボる常習犯だった。
勿論いい事ではない、そんな事はわかっている
…でも…だから私はあの日…あの時、
あの人と出逢えたと言っても過言ではない。
…雑渡昆奈門…彼との出会いは私がいつものように授業を、サボっている最中だったから。
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