短編夢
□かくれんぼ
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「…私は……」
無意識にぐっと拳に力が篭もる。
…そしてそんな私に彼は黙ってただ待つ。
「私は…気配を消すことが得意だったのに…
あなたに会ってからどうもおかしいんです」
「…何がおかしいんだい?」
静かにそう尋ねてくる彼に私は素直に答える。
「あなたの前だと気配を消すことが上手くできないし、…最近はあなたがココへ来ない日なんて極力授業も受けるようにしてるのに…
何故かいつもあなたのことばかり考えて…あなたの事で頭がいっぱいで…胸が苦しくなったり、あなたを見るとホッとしたり…」
ぎゅっと自分の胸に手を当てて服を握るとやはり、今もこうして胸がドキドキする。
「…訳が分からないんです
正直あなたのことなんて考えたくなんかない」
たった一人の人に気持ちが左右されるなんて馬鹿げてる。
「……だから…」
「…だから?」
今まで目線を逸らしていたが、今度こそ聞き返してきた彼の目を見て私は言う。
「…この変な気持ちの意味が分かるまで
私はあなたとはこうして距離を置いておくんです。だから放っておいてください…!」
睨みつけながら半ばヤケクソでそう声を荒らげて言い、私は素早く屋根裏から降りてその場を去った。
今はまだこの感情の意味なんてわからない。
…だからもう少し…
もう少しの間はこのままこっそり、私は彼の姿を追うことにしようと思った。
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「…なるほど」
その場に残った雑渡昆奈門は、顎に手を当てて一人思いに耽る。
「どうやらこのかくれんぼ…
終わるのはまだまだ先になりそうだ」
私は君を見つけているのに
君がその感情の名前を見つけるのはいつの日になるのだろうか
……ま、気長に待つとするかな
先程の彼女の熱い眼差しを思い返しながら
雑渡昆奈門は一人ため息をついた。
。。。。。。。。。。。。。。。かくれんぼ
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