短編夢

□追いかけっこ
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「いい?左門。
お願いだから今日くらいは大人しくしててね?」

「えぇ、わかってますよ早乙女先輩!」

にいっと白い歯を見せて笑う彼に不安しかない

「よし…でも一応腰に縄つけようか」

持っていた荷物の中から縄を取り出していると左門は一人私に背を向ける。

「金楽寺はー…」

「…ねぇ、左門?聞いてる?」

あぁ、ダメだ。…嫌な予感しかしない。

「あっちだー!」

「…待たんかコラァー!」

決断力のある方向音痴とはなんと厄介なのだろうか。私は一人突っ走って行く左門の背中を追いかけた。

「潮江先輩の馬鹿…なんで左門も一緒にお使いなのよ」

私と左門に金楽寺までのお使いを頼んだ潮江先輩を恨みながら、学園の中を走り回る

…そんな姿を、一人の生徒が傍観しているなんて知りもせずに。










ーーーーーーーーー





「ったく…一体どこに行ったんだか」

自慢じゃないが、正直私はあまり運動が得意な方ではない。
それもあって先を行く左門に追いつくことが出来ずにとうとう見失ってしまった。

…まぁ、そうは言っても学園内にまだいることだろうと思い、とりあえず落ち着くことにする。


「…普通に金楽寺へ行くには門から出て行くものだけど…」

決断力のある方向音痴の左門なら簡単にそうはいかないはず
…となると…


そうして左門の居場所を外でウロウロしながら考えていると、ふと見知った後輩が少し先の廊下を歩いているのが見えた


「藤内ー!浦風藤内ー!」

手を振りながら近寄っていくと、ようやく自分が呼ばれていたことに気付いたのかゆっくりとこちらを振り返る

「どうしたんですか?早乙女先輩」

いつもの様子で尋ねてくる藤内に
「実は…」と事情を話そうとしたが、不思議と目の前の藤内に何か違和感を覚えた。

「…?…どうかしましたか?」

「…あ、ごめん。いやぁ、それがね…」

声がいつもと少し違う気がしたが、この年頃なら丁度声変わりもするだろうと思い、気にするのはやめて事情を説明する。

「…左門の奴またか…」

ため息をついて半ば呆れている様子の藤内は
同学年として、もうこの事象も慣れたものなのだろうなと思うと少し同情する。

「…実はついさっき左門が何か叫びながら門の方へ向かっているのを見たんです。関係ないと思って呼び止めもしなかったんですが…」

「門!?そんな…偶然そっちに…?」

自分の読みが外れていた事に驚いていると
藤内は申し訳なさそうに後ろ頭を掻いて謝る

「すみません、呼び止めればよかったですね」

「いやいや!藤内の気にすることじゃないよ!
ごめんね、じゃあ追いかけに行くからまたね」

「はい、お気をつけて」

藤内の手を振る姿を見て、私はすぐさま門へと向かった。

「ったくもー…早く金楽寺へ行きたいのに!」


急いで走っていくと直ぐに門へ着いたものの、そこに肝心の左門の姿はなく
いつもの如く小松田さんが掃き掃除をしているだけだった。

「あ、れいちゃん。今日はお出かけかい?」

「え、あぁ…はい。それはそうなんですけど…」

キョロキョロして辺りに左門の姿がないか探すもののやはり見当たらない。

…まさか!

「小松田さん!もしかして左門…
…神崎左門は外出しましたか!?」

学園の外へ行かれると、もはや見つけることは不可能に近い。

「うん…?左門くんなら…」

「左門なら…?」

ゴクリと唾を飲み込んで、思い返している小松田さんの言葉を待つ





「…今日は見てないけど」

「だはぁ!」

ごてん、と少し大袈裟に後ろにひっくり返ると小松田さんは笑った
別に笑いを取りたかったわけじゃあないのだけれど。

「もう!小松田さん!」

「いやぁ…ごめん、ごめん。
…ところでれいちゃんはどうして左門くんを探しているの?」

可愛く謝られてもそこに謝罪の意は一切感じられない。…まぁ怒ってるわけじゃないから別にいいが

「…それがですね…」

そうして小松田さんに事情を説明すると時折「ふんふん」と相槌を打ちながら話を聞いてくれた

「そっかぁ、それは困ったねぇ」

「はい…。だから小松田さん、もし左門がここへ来て外出しようとしても、私を待っているように伝えてくれませんか?」

「うん、わかったよ」

「ありがとうございます」



そして一段落話の区切りがついて、
私はもう一度左門を探そうと踵を返すと
何やら少し遠くでまた藤内の姿が見えた。
なぜかこちらに手を振りながら走ってきているようなので私は首を傾げる



「早乙女先輩ー!早乙女先輩ー!」





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