短編夢

□追いかけっこ
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「あれっ!?」

先程まで掴まれていた腕を逆に掴み、今度は私が彼の足を止める

「あんな所に…
…………浦風藤内が…!?」

「なっ…!し、しまった!!」

遠くを指さして、いかにもその方向に藤内がいるかのように驚いて見せると、目の前の彼は焦ったように目を見開く

「…っていうのは…まぁ、嘘なんだけど」

「………へ…?」

私の言葉にまんまと踊らされてる目の前の彼を見て、私はグッと距離を縮める

「だって藤内はここにいるじゃない?」

「…え、えぇそうですねぇ…」

「本人がここにいるのに…ましてや自分自身なのに…どうしてそんなに焦ったのかな?」

「そ、それは…」

握った手は離さずに、一歩一歩近付いて壁際に追いやっていき、私はじっと目を見つめながら話す

「咄嗟に″しまった″って言ったのは変装がバレるから…じゃあないですか?」

「へ、変装…?なんの事だか…」

「あっ、懐から不破先輩のお面が落ちそう…」

「えっ!?」

パッと俯き懐を確認した姿を見て、
私はやんわりと笑ってみせる

「嘘ですよ、″鉢屋先輩″」

「な、なんだ脅かすなよ。
傷でもついたらたまったもんじゃ…な……」

そこまでしてようやく彼…鉢屋三郎先輩はこちらをゆっくりと見て顔を引き攣らせた

「ねぇ…鉢屋先輩…」

私はニコニコ笑っているつもりだが、
ピキピキと自分のこめかみに違和感を覚える
…恐らく血管が浮き出てるのだろう。まぁ無理もない、それはそれは苛立っているのだから

「い、いや…違うんだ。早乙女…これには深ーい事情があってだな…」

「問答無用!」

ドスッ

「あぐっ…!」

鳩尾に一発拳を食らわすと藤内の顔をした鉢屋先輩は蹌踉ける

「さぁ、ではその深ーい事情とやらを詳しく聞かせていただきましょうか?」

「う、うう…」

涙目になって、もう勘弁してくれと訴えかけられるが私は容赦しない

「さぁ、無理やり剥がされたくなければそのお面も外してください!」

「…鬼め…」

「…何か?」

ギロリ睨みを聞かせてそう尋ねると
流石に鉢屋先輩も懲りたような表情で首を左右にぶんぶん振った

「わ、わかったわかった!
もう降参するって!私の負けだ!」

「…はい、じゃあ私が納得する説明をどうぞ」

私が掴んでいた手を離すと鉢屋先輩は「ふぅ」と一息つくと、藤内の顔からいつもの不破先輩の顔へと戻し

「実は…」

と、ぽつぽつ話し始めた









ーーーーーー






「…はぁ!?」

「すまん、すまん」

事情もクソもあったもんじゃない

「…こんの…!」

「お、落ち着けって…!」

殴りかかろうとした私の拳を、鉢屋先輩はガシッと掴んで止めるが…正直殴られても文句が言える立場ではないと思う

″実は早乙女と左門にお使いを頼んだのも私なんだ″

そう聞いた時、何が何だかさっぱり理解ができなかった
「…え?」と聞き返すと反省したように言うならまだしも「いやぁ…」と少し照れたように話し始めた鉢屋先輩はこう続けた

″ちょっとした出来心で…少ーしイタズラしようかなー…なんて。はははは″

つまりはただの暇つぶしに私と左門をからかったという事だ

「これが落ち着いていられますか!?私だけでなく…可愛い可愛い私の後輩までも…!」

左門は今も何処かを彷徨い歩いて…いや、走っていることだろう。
それでは左門が不憫でならない!

「今すぐ二人で左門を探しに行きますよ!」

グイッと服の裾を引っ張って行こうとすると
鉢屋先輩は「待て待て」と私を止める

「左門には直ぐにイタズラだって私から
バラしたからもう大丈夫だと思うが…」

「……は?」

私が胸倉をグッと掴んでそう尋ねると、少し冷や汗をかいて答える

「い、いやぁだから…左門はもう大丈夫だって」

「だから″追いかけっこ″はもうお終い」とニコニコ笑う鉢屋先輩


「…じゃあつまり…途中から二人をからかう事から切り替えて…私だけをからかおうとしてたってことですか?」

何の為に?とも、一瞬そう思ったが最早ここまで来るとそんなことはどうでもいい


「そうそう。だからまぁ…バレたから仕方ない。私はもうこの辺で…」

何の悪びれもなく笑って逃げようとする鉢屋先輩に、私はもう我慢ならなかった


「……さない…」

「…ん?なんだって?」


「…許さない…って、言ったんですよ!!
鉢屋先輩!覚悟ーー!」

「ひぃー!」













終わらない



。。。。。。。。追いかけっこ


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