短編夢

□伝えるために
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「…はぁあ…」

廊下を一人歩きながら、
れいは盛大にため息をついた
向かうは山田先生の所
土井先生がいないことを願いながら
重たい足取りで二人の部屋へと向かった

「失礼します、山田先生いらっしゃいますか?」

ガラッと音を立てて開けた戸の先にいたのは

「山田先生ならつい先程外出されたばかりだ…
……っと、…早乙女?」

「…はぁぁあ…」

まるで伏線を張ったかのように山田先生がその部屋にいることは無く、かわりに土井先生が部屋の中で書類の整理をしていた

「なんだその溜息は!」

土井先生は口を大きく開けてそう言うと
れいは既に戸に手をかけて帰ろうとしていた

「失礼しました…」

「ま、まぁ待て。一応要件だけでも聞こう」

「でも…」

「私でもできることかもしれんだろう?
何か勉強でわからないことでもあるのか?」

そう尋ねられたことにより、れいは少し振り返る

「…外出届の件…どうしてもダメかなって」

顎を少し引いて控えめに言うれいに対し
まるでそう言う事がわかっていたかのように
軽く息を吐いて答える

「…きちんとした理由があるなら許可は出す」

「そこは聞かないでくださいよぉ…!
土井先生の助平!」

れいは両手で自分の体を抱きしめるようにして体をくねらせる

「早乙女…お前なぁ…」

呆れる土井先生に対してれいはめげずに続ける

「もう、土井先生!理由なんて別にいいじゃないですか!」

「私はお前のことを一人の生徒として心配して言っているんだ。もうすぐ卒業するという時期に…何か厄介事に巻き込まれたり怪我でもしたらどうする」

土井先生のその言葉は教師としてごく当たり前の言葉だった。しかし、れいは少し目を見開いて驚き、その後土井先生から視線を外す。

「それなりの理由があれば…いいんですか?」

「…あぁ」

急に元気をなくしたれいを不思議に思いながらもそう返すとれいは一呼吸置いて話し始めた。

「…私の就職先、土井先生はご存じですか?」

「…いや、いい城に雇われることになったとは聞いたが…何処とまでは…」

「…この忍術学園から急いで行っても
ひと月くらいかかる程に遠くのお城です。」

「…! …そうか、そんな遠くへ…」

土井先生の落ち着いたその声はれいの心情を気遣ってくれているかのように伺える。

「…だからこの地から遠く離れる前に…
ある人に想いを伝えなければいけないんです」

立っているれいの手を見ると
力いっぱい拳を握り、気持ちを押し殺している

「山本シナ先生に言われました。
一人前のくノ一になる為にはそんな感情は持ち合わせない方がいいって
…だから私はその気持ちを置いて行って
一人前のくノ一として卒業したいんです」

その様子を見て何か急に胸の奥がざわつくのを感じた時には、考えるよりも先に口から言葉が出ていた

「…早乙女にはそんなに大切な人がいるんだな」

「…はい」

今まで逸らしていた目を元に戻し、土井先生の目を見つめて堂々と言うれいに、彼女の女としての強さとくノ一としての覚悟を感じ、根負けしたというようにため息をついた。

「……仕方ない、今回だけだぞ」

そう言って紙を取り出し筆を持って外出届の許可を書き始めた土井先生に、れいはのそのそと近付く

「…え…い、いいんですか?」

「…私からの早めの卒業祝いだ。」

「本当に…?」と控えめにれいが聞くと無言で頷く土井先生

「…やったぁ!
土井先生、ありがとうございます!」

あまりのれいの喜びように
心底相手のことを想っているのだと感じ、
それと同時に何か自分の中でモヤモヤしたものを感じた。

「…ほら、行ってこい」

「ありがとうございます!」

紙を受け取ると急いで部屋から出ていこうとするれいに「早乙女」と声をかける

「…はい?」

「…無事に帰ってくるんだぞ」

「…もう、土井先生ってば心配性だな
大丈夫ですよ、帰ってきたらちゃんと土井先生に報告しに来ますから」

いつもみたいに輝いているその笑顔を見て
「待っているからな」と言うとれいは返事をしてそのまま急いで部屋から出て行った。

「…生徒の前に…一人の女だもんな」

ポツリと独り言ちて、早乙女の想い人について考えようとしたがやめた

「…今日はどうにもあちこちが痛いな」

思考回路を遮断して、キリキリ痛む場所を苦笑いしながら押さえた。






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