短編夢

□追いかけっこ
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「藤内ー!なーにー?」

声を張って尋ねると、近付いて来ながらもそのまま遠くから話しだす

「さっき左門が学園長の庵の方へ向かって行きましたよー!」

「なにっ!?」

左門の意味のわからない行動に私は驚き、困惑する

「早く行かないとまた逃げられますよ!」

藤内は学園長の庵のある方向を指差して
アドバイスしてくれている
確かに藤内の言う通り、早く向かった方がいい

「わ、わかった!!すぐ追う!
じゃあ小松田さん、もしここへ来たらよろしくお願いしますね!」

「はーい」

小松田さんへそう言い残し、私は全速力で藤内の指差す方へと向かった。












「…ふう、いやぁ走った走った。」

浦風藤内はそのまま走ってきた勢いで
小松田さんの横へと並び、彼女の後ろ姿を遠目で見る

「あれ、浦風藤内くん…君ってそんなに…


……背高かったっけ?」

小松田さんは思ったことを口にして首を傾げると、藤内は直ぐに答える

「成長期ですから」

「あぁ、そっか〜」

二人目を見合わせて「あはは」と笑い合うものの
小松田さんは藤内のその笑った本当の意味に気づくことは無かった









ーーーーーー



一方、その頃学園長の庵近くでは…




「左門ー! さーもーんー!」

声を荒らげながら、草むらをかき分けたり木の上や学園長の庵の中まで探したのに見つからない

「一足遅かったのかな…」

「はぁ…」と一人虚しくため息をつき、次は何処を探そうかと考える

「あっちは行ったし…こっちも探したし…
…ここもいないし、外には出てないし…」

…そうして暫くじっと動かず、頭の中でグルグルと考えを巡らせるものの…

「……あー、ダメ。もうわかんない…」

疲れてドサッと地面に手を着いて絶望に陥る。
傍から見ればたかが迷子くらいで?と、少し大袈裟に落ち込みすぎだと思われるかもしれないが…それほど迷子は厄介なのだ

「こんな迷子を管理をする作兵衛って一体…」

どれ程の苦労がかかっているのだろうか…

「…あ、何だか作兵衛がとてつもなく不憫に思えてきた」

可哀想だから今度お団子でも奢ってあげよう
…なんて思いながら私は未だに地面と顔を合わせていると、後ろから誰かが近づいてくる気配がした

誰だろうと思いつつも、どうせこの辺りなら学園長かヘムヘムだろうと思い、無視を決め込むもののトントンと肩を叩かれて見上げる

「早乙女先輩」

「…藤内…」

ここにはもういなかったよ。と言おうとしたのもつかの間、私より先に藤内は口を開く

「左門ならさっきまた門の方へと走っていくのを見ましたよ!」

「え……な…なんだって…!?」

そんな馬鹿な…そう思って私は空いた口が塞がらないでいると、藤内は私を立ち上がらせようと何故かニコニコ笑いながら手を引っ張る

「ほら…早く行かないと…!」

「えぇっ、ちょっと待ってよ…」

何だかとてもウキウキしている様子の藤内に疑問を抱きながら立ち上がると、またもや違和感を覚える

「ほら、早く早く!」

私の手を引き、先を歩き出すその違和感の正体に…私は足を止めた

「…早乙女先輩?」

藤内……いや、彼は不思議そうに振り返りこちらを見る。
その様子に私はふつふつと湧き上がるこの感情を、なんとか落ち着かせようと我慢する。

「藤内…声変わりした?」

「…え?…あ、あぁ実はそうなんですよ
自分じゃわからないけど周りからはたまにそう言われたりもして…」

後頭部を掻きながらそう言う彼に、私は尚続ける


「何だか身長も…いつの間にか私を追い越してない?」

「…あー…成長期ってやつですよ」

斜め上を眺めながらそう言う彼に、私は
かまをかけることにした


「あ、そうそう藤内…実はさっき不破先輩にあってさ…」

「ん?らい……
…ふ、不破先輩がどうしたんですか?」

「いやぁ、なんか今の私みたいに急いでる様子で鉢屋先輩を探してるみたいだったんだよねー…。
…なんだろう、切羽詰まった様子だったんだけどな」

「そ、それ本当…?」

「ほんと、ほんと」

不破先輩が探しているという事に驚き、敬語もなくなった。そして徐々に焦り始めたのかソワソワし始める様子を見て、疑いは確信に変わる

「あっ、いけない…!
僕ちょっと用事を思い出したんで…」

「…」

私の腕を掴んでいた手をパッと離してこの場から去ろうとするが……逃がさない!





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