短編集【wrwrd 】

□まとめ@
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後日、街中を歩いているとふと声をかけられた。反射的に振り返ってみるとそこには、あのケーキ屋の彼が立っていた。予想外の人物のご登場にサギのような変な声が出た。


「驚かせてしまってすみません。先日のお礼を申し上げたくて」
「えっ?」
「ほら、1日10食限定モンブランパフェを譲ってくださったじゃないですか」
「パフェ、パフェ.....ああ!」

パフェというワードと共に蘇るあの記憶。ぬぬぬ…忘れかけていたのに。

「代金をお支払いしたくて。確か、1200円でしたよね」


長財布を取り出す。どっからどう見ても高級そうな財布だ。嘘でしょ。イケメン+インテリ+リッチマンって......

「そんな、いいですよ。強引に押し付けたも同然ですから」
「流石にタダ食いというのも僕の良心が痛みます。せめて何か奢らせてください」
「ですが......」
「学生なので喫茶店が限界ですけど」

まあ、お茶くらいなら…と答えると彼オススメの喫茶店へ行くことに。道中、お互いのことを色々話した。驚いたことに彼は私と同じ大学の生徒だった。

「驚きましたよ。あの曲が流れた時は。まさか自分以外に知っている人がいるとは思いませんでした」
「え、連邦マーチをご存知なんですか?」
「勿論ですよ。エリカ行進曲に雪の進軍…軍歌はよく聞きます」
「おお、雪の進軍!軍艦マーチや抜刀隊もいいですよ!聞いているだけで全神経からアドレナリンがドバドバと溢れ出て________」

ハッと我に返る。目を丸くした彼。
しまった!趣味のことになると周りの目や我を忘れて語り出してしまう。昔からの悪い癖だ。いくら、同趣味の人でもこんな姿を見せられたらドン引きするに決まっている。

もう最悪だ......額を押さえて項垂れる。
すると、頭上からくすくすと笑い声が降ってきた。

「ちょ、どうしちゃったんですか」
「すみません。あまりにも熱く、楽しそうに語るものですから、つい」
「引かないんですか?私みたいな軍歌オタク」
「引くはずないじゃないですか」
「え?」

またまたぁと思い、彼の方を見るも至って真面目な表情。お世辞を言っているようには思えない。暫くの沈黙の後、彼は口を開いた。


「だって、あの曲のおかげで、こうして貴方と巡り会えたのですから」


ふわりと初夏の風が彼の前髪をかきあげる。なんかクサイですね、と風の中で照れ臭そうにはにかむ彼。その優しげな笑みとその言葉に、胸の中で甘酸っぱい感情が飛び跳ねた。
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