天の章

□異国
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■混乱する大陸■

 ――大陸は海へ目を向けていた。

 荀 夕霧(しゅん せきむ)は帝から金印を託されてからずっと、心は蓬莱(ほうらい)へと飛んでいた。

 蓬莱は遙か東にある島国――かつて漢帝は彼の国王に金印をあたえた。
 ――その役目を私がになうことになるとは…。

 深い感慨が胸一杯にふくらんで興奮を抑え長く息を吹きだす。

 ――あなたの国をやっとこの目でみることができる。



 夕霧は子供の頃から西から流れ着く肌の色の違う人間は見慣れていた。

 夕霧が居としている長安には実にさまざまな人々がおとずれていたからだ。

 膚が赤いもの黒いもの、また透けるように白い肌を持つもの…。

 茶褐色の目があれば翡翠色の目、湖面のような蒼い目のもの――そして民族衣裳。

 街をあるきまわり、さまざまな人間をみなれたのに――はじめて町の中に羽が生えた人間をみつけて夕霧はどきんと胸がはねた。
 
 あれは、本当に羽?

 夕霧は一生懸命に追ってその人の手を掴んだ――。
 黄色い髪に蒼い瞳――そして抜けるように白い肌、そして繊手には指輪が一つ…。

 肝心の羽は――真っ白だった。

「――それは、飾りじゃなくて本物のはねだよね!」

 息も途切れ途切れたずねると、彼女はわらった。

「そうよ」と。

「あなたは、どこからきたの?」
「日向――……」
「ヒムカ?」
「うーん…あなたの国のことばで蓬莱かきたんよ」
「ほ、ほうらい?」
「そ、蓬莱――」

 蓬莱――天女がすむ国だとお祖父様からきいたことがある。
 そこからこの人が――?
 夕霧は喉を一度鳴らして
「どんなくにか、教えて!」
 そう好奇心に声を出して訊ねていた。
「ええよ」

 その人はシラトリといった――。

 儚そうに見えて――とても。
 とても。
 優しい人だった――。

 椋の木の木陰で毎日会う約束をして一日一つ彼の国のことを教えてくれた。

 初恋だったのかも知れない。

 毎日楽しみにしていたのに、突然彼女は――空に旅立った。

「――蓬莱に来たら私を探してね!」

 白い羽をのこして眩しい太陽の中に消えた。


 ☆

 それから十年以上――か。

 蓬莱――豊葦原についたとたん、私は単身、日向の一族がいると言う九州へむかった――とある村で足止めされてしかも女装せねばならなくなったけれど……。

 ――私は千尋を見てドキン――と胸がはねた。

 だって、あのシラトリにそっくりだったから。

 日向の一族の人にシラトリという者を知っているかとたずねたら17年まえ大陸を目指して帰ってこなかった者がその名だと聞いた……。

 シラトリ…、白鳥――。

 千尋、ねえ…あなたは運命をしんじる?

 そう、自分の国の言葉で千尋にたずねた……。

 
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