PEACE MAKER

□お出かけ
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「烝?どうしたの?」

あの日からずっと、お前は俺の光。



「烝!!聞いて聞いて!!」
タタタッと軽めの足音の後、部屋の戸が開けられた。
軽く肩で息をしているのは走ってきたからだけではないだろう。
少し興奮気味の花は部屋の中に入ってくると机で書物をしていた俺の隣までやってきて俺の左手を両手でぎゅっと掴んだ。

「今日お休みだって!」

花の声が弾んでいる。

「休み?」
「そう!近藤さんがね!たまにはいいんじゃないかって!烝も一緒だよ!」
「2人共?それはあかんやろ…」

俺は新撰組の隊医として松本先生の診療所から帰ってきたばかり。そして、花は俺1人で全隊士を診るのは大変だろうという松本先生のはからいでやってきた松本先生の弟子。
松本先生の診療所で出会ってから半年、特に新撰組の屯所にやってきてからお互い休みなく働いている。

「そうなんだけどね?土方さんも『午後半日だけなら』って言ってくださってね?」

自分でも2人して仕事を離れることへの申し訳なさがあるのか困ったような顔をしている。

俺はともかく、花にはたまに息抜きさせてやらんとな…

こんな男所帯にいきなり連れてこられて相当気を張っているのだろう。最近は初めて会った頃のような笑顔も減ってきた。
だから久しぶりに満面の笑みで部屋に入ってきた花を見て少し嬉しくなった。

「やっぱり2人ともいないなんてマズイよねっ。近藤さんに断ってこようかっ…」

俺が黙ったままなのを拒絶と捉えた花は来た時とは正反対の暗い顔をして俺の左手を離した。

「いや、せっかく局長が言うてくれとるんやし、休みもらうか?」
「ほんと!?いいの?」
「あぁ、花1人で休んでもええんやけど…」
「そんなのっ!烝の方が休むべきだよ!」
「そう言うと思ったわ。だから2人で行こか?」

また花の顔がパッと明るくなる。俺とは違うそのくるくると変わる表情を愛しいと思う。
俺は左手を花の頭に乗せ優しく撫でた。

「朝の間にできる仕事終わらせたらええやろ。行き先も伝えて、何かあったらすぐに呼びに来てもろうて…」
「……うん、分かった!じゃあ私体調崩してる人のところ行って様子見てくるね!」

花がまたパタパタと部屋を飛び出していった。


入れ替わり…というか先ほどから入り口で待っていたのだろう、斎藤さんが部屋に入ってきた。

「君も存外甘い男なのだな。」
「そんなつもりはありませんが…今日はどうされましたか?」
「いや、君と辻村君の関係を気にする者は意外に多いのだ。」

斎藤さんが真面目な顔で冗談なのか本気なのか分からないことを言う。

「気にかけていただくような関係ではありません。」
「ならばそれはそれでこれから先に期待をしてみたいものだ。」
「…そうですか。」
「ところで山崎君。今日は安心して出かけるといい。『君達の仕事は無い』」

驚いた。この人が自分の視たことについてここまではっきりと言ってくるやなんて。
黙って斎藤さんを見上げると、こちらも黙ったままの斎藤さんが俺を見下ろしてきた。

「お気遣い、ありがとうございます。」

俺は軽く頭を下げ、書いていた書物を閉じて立ち上がった。

「今日はゆっくりあいつを休ませてやれそうです。」
「そうしてやるといい。君にも休息は必要だ。」

斎藤さんはそう言うと、診察の準備をする俺を置いて部屋を後にした。
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