PEACE MAKER
□服の話(その5)
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*
店を出ると、先程まで薄暗い店内にいたせいか、外の光が眩しくて目を細めた。
「ごちそーさまでした。」
遅れて店から出てきた烝にお礼を言う。
結局お昼ご飯は烝が払ってくれることになった。
私が奢る約束だから、と食い下がったのだけれど是と言ってくれずに、店から先に追い出された。
まださっきのことを気にしているのかな…ちょっと私も怒りすぎたよね…
「行こか。」
そう言って先を歩き出した烝の後に続く。
さ、本来の目的に戻らなければ。
「とっても素敵なお店だったね!!」
「せやな。」
「次どこ行きましょう!」
「どこって当ては無いんか…。」
「いやー…沢山お店あるから…烝がいつも行くお店とか無いの?」
「そこにスカートは無い。」
「…それもそーですね。」
涼しかった店内から急に日向に出たからか烝は少し眉をしかめて暑そうに首元をパタパタあおいだ。
私は少し店内が寒かったからちょうど良かったけど…。
そういえば真昼間に外にいる烝を見るっていうのもなんか変な感じだ。
いっつも昼も夜も関係なく部屋に閉じこもって本ばかり読んでる気がする。
かといって体を動かさない訳ではないんだけど。
でも鉄之助君達がワイワイとサッカー(じゃないんだってね、フットサルって言うんだってね)やってるのに加わってるのは想像がつかない。
どっちかっていうとダーツとか…得意そうだ、うん。
烝に外で会うのは決まって夜で、例えば沙夜ちゃんと遊びに行って帰りが遅くなった日とか、最近始めたアルバイト(早くも辞めたい…そうだ、さっきの喫茶店アルバイト募集してないかな…)の帰り道だったりだとか、地元にいた時は塾帰りなんか…とにかく少し遅い時間に駅前のコンビニとかでバッタリ会う率が高いのだ…
…烝ってもしかして超夜行性?
コウモリのような翼と牙が生えた烝を想像してしまい思わずブフッと吹き出してしまう。
可愛いじゃん…。
こちらをチラッと見た烝が暑いからか私がおかしいからか怪訝な顔でこっちを見下ろしてきた。
*
喫茶rishinを出る際、先に花を店から出しておいて正解やった。
沖田さんのキラキラとした笑顔と近藤店長の泣きださんばかりにうんうんとうなづく姿が忘れらない。
師匠にもよくあの顔されるんや…。
レジスターを面倒くさそうにガチャガチャと叩く土方副店長(正確には副店長ではないらしいがみんなそう呼ぶ)まで、
「山崎君も隅に置けねぇってことだな。」
とレシートを差し出しながら呟いとった。
ふとレジ横に貼ってあるスナップ写真に目がいった。近藤店長の趣味で店によく来る客を撮ってはこうして飾ってる。
「これは…。」
「おお!大分古い写真だなぁ。まだ俺がこの店を継ぐ前に撮ったんだ。こいつらも常連なんだぞう。」
そう言われた写真に写っているのは今よりもうんと若い…いや、幼いと言ったほうが正しいかもしれへん、沖田さんと、先程街中で出会ったブーブーモーモーの会長含む3人組(こちらも今より随分幼い)だった。
予想外のところでまた出会うことになるとはな…
「そういえば藤堂さん達とはまだお会いしたことありませんよね?とっても楽しい人達ですからきっと面白いことになりますよっ。」
「…えぇ、間違いなく面白いことになりそうです。」
悪い意味で、やけど。
ふっと遠い目をして答えた俺はもう花連れてくんのはやめようと決心した。
面倒なことになりそうやし…色々と。
店を出て、あまりの眩しさに目を細める。
日差しも日に日にきつくなっていて、今日は少し暑いくらいだ。
せっかく引いた体温がまた上がるのが分かる。
隣で花がブフッと吹き出す。
…こいつほんまに一々色気無い奴やな…。
ただ可笑しそうに笑っている姿は彼女らしいと思うので指摘することもしないが。
「何?」
「いやー、なんでも?」
「さよか。」
「嘘嘘!あのね、烝って夜行性なのかなって。」
「なんやねんそれ。」
忍者でもあるまいし。
「だっていっつも外で会うって言ったら夜ばっかりじゃん。バイト帰りとかさ〜…」
「たまたまやろ。」
予想以上にくだらなかったのでそれ以上の会話を打ち切って前へと進む。
日中かてそれなりに外出はする。そもそも大学は昼間や。
ただ夜に部屋で本を読んでいると、22時ごろからなんとなくソワソワしてきて、本に身が入らへんようになる。だから息抜きがてら外に走りに行ったりコンビニへ行ったりするだけや。そういう時の花との遭遇率は尋常じゃないが。
でも、最近では師匠から
「そろそろお迎えに行った方が良いのではないか?ハッハッハッ。」
とご機嫌な指摘をされることが増えてきた。
別に迎えに行ってる訳やないけど、集中力が切れているのも確かやし、そうやって少し外の空気を吸えば、帰ってからまた集中できるので、あれは俺の精神状態を分かった上での師匠なりの冗句なんやろう。流石や。
まぁそれに、一般論として夜道は危ないわけやし…。
花はいちいち俺に自分の予定を宣言するのが好きやから、せやから俺はあいつがバイトがある日とか遊びに行く日を知っているだけや。