PEACE MAKER
□服の話(その7)
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明らかに様子がおかしい花を店の入り口からじっと見る。
なんで1着のスカートあないに凝視しとるんや…。
よう見たらスカートすら視界に入ってへんような気もする。
眉をしかめていると、会計を済ませて出てきた親子が俺の横を通り過ぎた。
娘の方が俺の顔を見て「あれ?」という顔で立ち止まる。
「あの、すいません。」
視線だけでそちらを見ると、俺らよりもいくらか歳上に見える彼女は花の方を指差した。
「あの人のお知り合いですか?」
「まぁ連れですが何か。」
「あの、余計なお世話だったら申し訳ないんですけど…」
母親らしき人と俺の顔を見比べながら彼女は俺にさっき見たことの顛末を教えてくれた。
試着室から出てくる花をずーっと見てるおっさんがおった。そいつは花が店を出てすぐに追いかけて退店した。
連れ合いにしては、手に持っていたシャツをグシャグシャにしたまま慌てて飛び出るもんだからなんだか様子がおかしいなと思っていたのだ、という。
そこにまた俺たち2人で戻ってきたから先ほどのおっさんは誰なんだろう、と気になったらしい。
「もともとお二人でお店に入って来てたじゃないですか。私それも覚えてて。」
彼女は変なこと言ってたらすいません!と再度謝ると母親と店を連れだって出ていった。
試着室から出て、となると俺が電話で店を後にしてからになる。
一回退店したのはきっと俺を探しに、ってことやろ。
その後におっさん…?
本人に直接聞いてみよう、店内に入る。
何もなかったのならそれでええ。少しでもあいつの不機嫌の正体が分かればええんやから。
ボーッと突っ立ったまま(店員すら声をかけるのを躊躇っている)目の前にあるスカート…それドレスやないか…を見ている花の肩を右手でポンと叩く。
「うあぁ!?!?」
そう言って花はその場に頭を抱えてしゃがみ込んでしもた。
店内に降りる、沈黙。
とても遠慮がちに店員が奥から「大丈夫ですかぁー…」と声をかける。
「すんません、大丈夫です。」
俺は会釈して店内を見渡す。
幸い、丁度客足が途切れたタイミングやったので店内には他に客はおらへんかった。
「花?」
声をかけると、恐る恐るといった様子でこちらを見上げた。
「…はい?」
「なんかあったん?」