PEACE MAKER
□照れ屋な話
1ページ/5ページ
最近、スマホにロックをかけるようになった。
しかもパスコードはきっちり6桁。
前までは勝手にスマホを触っても何も言わなかったのに、この前LINEが鳴ったから持っていってあげたらめちゃくちゃ怒られた。
「アホか、人の勝手に触んな。」
女の勘が怪しいと言っている。
これは……
「烝、彼女できたな?」
…いつの間に?
んー…と唸りながら腕を動かす。
カシャカシャと冷たいボウルと泡立て器がぶつかる音がする。
…まぁそれはこの際どうでも良いとしても
「飽きてきたな…」
氷水をはったボウルに浮かべたガラスボウルと泡立て器を放り出して、勝手口から外に出る。
裏庭の塀には梯子がかけてあって、それによじ登ってお隣のお庭に降りる。
隣の勝手口をガチャガチャと回すと物騒な昨今だからかきちんと施錠されている。
ただ、慌てることなく勝手口に吊らさがってるウェルカムボード(勝手口にウェルカムボードがあるのはこの際突っ込まない)をめくってかなり分かりづらく貼られている木目調のシールを剥がす。
そこから小さな鍵を取り出すと今度こそガチャリと開けて中に入る。
「烝ー。」
勝手に入るから勝手口、じゃないの?と思ってたんだけどどうも違うらしい。
台所のことを昔の人はお勝手と呼んだんだそうだ。
「なんや?」
烝の姿を探してリビングに入ったとき、ちょうど風呂上りだったのかさっぱりとした烝が頭をタオルで拭きながら顔を見せた。
「あれ、なんでお風呂?」
「走ってきた。」
「あらー、それはお疲れ様ですー。」
自分から聞いておいて早々に興味をなくした私は烝の首にかかったタオルの両端をグイと引き寄せてニヤッと笑った。
「そんなことよりもちょっと来て?」
思い切り顔を引きつらせた烝が精一杯後ろに仰け反る。
引きつったって言っても当社比だから、他の人から見ればただの無表情だ。
「何で?」
「まぁまぁ、はやく髪乾かして来てね。」
掴んでいたタオルをパッと離すと烝が後ろに2、3歩後ずさる。
こんなことくらいでバランス崩して、体幹鍛え直した方がいいんじゃない?
私はクルリと身を翻すと、もう癖みたいなものなんだけど、リビングに飾ってあるフォトフレームをよしよしと撫でてから烝宅を後にした。
フォトフレームの中に収まっていたのは幼い頃の烝と私だ。2人ともお揃いの可愛いワンピースを着て、短い髪に大きなリボンを結んでもらっている。私のワンピースの裾を両手で掴んで不満そうにブーと口を尖らせている烝の横で、私は満面の笑みで両手をピースにしてカメラに向けている。
正直私よりも烝の方が、色も白くて目もまんまるだからうんと似合っている。女としての自信なくしまくりだ。
でもこの写真は私と歩お姉ちゃんのお気に入りなのだ。
何故って?
…見るたびに烝が嫌な顔をするからに決まってるじゃん!
烝が何度も何度もフォトフレームを仕舞おうとするたびに私達が全力で抗議するものだから、最近はうんざりした顔でそちらを見ないようにするだけで、手は出さないようになった。
お互いの黒歴史まで知り尽くした私達幼なじみ2人は何かあるたびにこうやってお互いの家に行き来し、用事を言いつける。
友達にその話をする度に「スマホで呼べば?」って言われるんだけど、烝は大抵スマホを携帯していない。
部屋とかリビングに置きっぱなしにしている。
だからすぐに呼びたいときはこうやって直接出向く方が早いんだ。