PEACE MAKER

□照れ屋な話
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2分も待たずに烝が(こっちはきちんと玄関から!)やって来た。

「で、何をせえっちゅうんや。」

まだ前髪がしっとりとしている烝に氷水を張り替えたボウルを指差す。

「あれ、手伝って?」
「…は?」

ボウルを見て目がまんまるくなってる烝に洗面台からとってきたタオルを被せてやる。
まずはその濡れた頭からどうにかしないと。

「ハンドミキサー壊れちゃったんだよねぇ。手で一からやるとしんどいじゃん?だからお願い。」

「俺に何の得があるっちゅうねん。」
「えー、出来たら烝にも味見させてあげるよー?」

ガシガシと乱雑に頭を拭いてやると視線を逸らした烝が私の着てたパーカーのジップを上まで引っ張り上げる。

「いや何すんの暑いわ!」
「うるさい、泡だてたらええんやろっ?」

タオルをむしって私に投げると、烝は手を洗いに台所に入った。それから男物のエプロンを(ご用意してます!この手のお願い日常茶飯事だから)つけて、半分苛立った様子でガシャガシャと泡だて始めた。

私はそれを椅子に座って眺める。

「うわーすごー。」

ガシャガシャガシャガシャ

「頑張れ頑張れー。」

ガシャガシャガシャガシャ

「あっちょっと泡泡になってきた!?ねぇ!?」

ガシャガシャ…

「…五月蝿い。」

額に汗の玉を浮かべた烝がジロリとこちらを睨む。

「ごめんなさーい。」

ペロリと舌を出して謝る。

反省の意など欠片もこもっていないが、烝は別に怒ってる訳ではないことを知ってるので何も怖くない。

「じゃあ私はホイップ作っとこーっと。」

もう一つのボウルに生クリームを入れるとこちらもカシャカシャと混ぜる。

ガシャガシャガシャガシャ

カシャカシャカシャ


ガシャガシャガシャガシャ

カシャカシャカシャ…


ガシャガシャガシャガシャ

カシャカシャ……


……カタン。

「うん、こんなもんか!」

10秒ほどかき混ぜた私は持っていた泡立て器を置いてボウルを見てウンウンと頷いた。

「アホか。」

烝が持っていた泡立て器の柄で私の頭をゴンと殴る。

「いたぁ!?」
「まんま液体やないか。」
「ちょっとなんか垂れてきたんですけど!?」

頭の上で叩かれた弾みにメレンゲが私の髪とほっぺに飛ぶ。
少し面白そうな顔をして烝は「すまんすまん」と心のこもっていない謝罪をする。

「拭いて!」
「自分で拭いとき。」
「烝のせいなんだから責任持って!」

ブーブーと抗議をする私にティッシュの箱を渡した烝はいつのまにかしっかりとツノが立つまで泡だったメレンゲを別の材料に合わせだしている。

ティッシュでゴシゴシと頭を擦りながら烝のほっぺをツンツンツンツンとつつきまくる。

「もー!じゃあ烝焼くまでやっといてよね!私お風呂入ってくる。」
「は?」
「だってなんか髪の毛ベタベタするし、烝もお風呂あがりじゃん。烝が悪いんだからちゃんとオーブン入れといてよね!」

そう言ってドシドシと足音を鳴らして私はシャワーを浴びに行った。
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