紅の祓魔師

□第1話
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「奥村くんって、何科?」



雪男「と、特進科・・・」



「わぁ、やっぱり!」



「背も高いねぇ!」



正十字学園の入学式が終わり、奨学金を勝ち取ってここの1年生となった奥村雪男



ただ今絶賛、女子に囲まれ中だった



雫「雪男」



雪男「あ、雫さん」



灰色のパーカーを、正十字学園女子制服の上から羽織っている、フードを被った少女



彼女を視界に捉えると、雪男は馴染みの少女が来た事に内心ホッとした



彼女、神月雫とは、ほんの数年程だがコンビを組んでいる仲だ



他の女子達と違って、キャーキャー騒ぐ事がない



それが、気楽だったりする



ぐいっ



雪男「え?うわっ」



パーカーのポケットに両手を突っ込んでいた彼女を、危なっかしいなと眺めていた雪男



だが目の前まで来た彼女が手を出すと、突然手首を掴まれて引っ張られる



後ろで不満そうな女子達の声が聞こえる中、彼女は一言も話さずただ引っ張る



雪男「あ、あの・・・雫さん?」



ぴた



雪男「?」



雫「・・・・・・来るのが遅い。探した」



雪男「え?・・・あ」



入学式終了後、合流しようと約束していたのを思い出した



向かう途中で女子達に捕まり、どうしようかと悩んでいた所に彼女が来た



それもあってか、一瞬頭から約束が飛んでいた



雪男「・・・うん。ごめん、遅くなって」



雫「・・・・・・奢り?」



雪男「はいはい。喫茶店でいいよね?」



雫「・・・うん」



少しでも機嫌が悪いと、こうして奢ってくれるかどうかを聞く



まだご機嫌取りが出来る程のものらしく、こんな時は喫茶店で紅茶やスイーツを奢れば、だいたい機嫌を直してくれる



彼女なりの、不器用な甘えなのだろう



雪男はそう思う事にしている



雫「今日からだっけ?」



雪男「え?」



雫「塾」



雪男「そうだけど・・・本当にいいの?僕の補佐役なんて・・・」



雫「私に講師なんて無理。絶対無理。口下手だもん。雪男の方が合ってる」



雪男「いや・・・雫さんの場合は口下手と言うよりも、行動の方が先に出過ぎっていうか・・・人見知りが激しいというか・・・」



人見知りが激しくて、言葉よりも行動の方が先に出てしまう



それが彼女だという認識が、雪男の中にはあった



苦笑する雪男に、彼女はそっぽを向く




















雪男「緊張してますか?」



雫「別に」



祓魔師(エクソシスト)が着るコートを着て、左胸にバッチを付ける



その上から更に、彼女は黒い外套を羽織ってフードを被る



雪男「・・・」



ふわり



雫「!」



後ろからフードを軽く引っ張られ、急に視界が明るくなった



パッと振り返ると、やはり苦笑した雪男がいた



雪男「フードを被ると、視野が狭まるから危ないよ?それに、勿体無いと思う。雫さん、髪も瞳も顔もせっかく綺麗なのに。それを隠すなんて」



雫「!?」



雪男「・・・って。これ、前から言ってると思うんだけどな」



爽やかなまでの笑顔を向け、彼女に微笑み掛ける



幼い頃、ずっとフードを被っている事に疑問を抱いていた



フードを取ったところを見せてくれた事はないし、被る理由も教えてくれた事はなかった



だが一度だけ、フードが外れた時があった



酷い雨の中、ようやく雨宿りできる場所まで来た時だった



バサッと音がして、そちらを見た



見た瞬間、雪男は目を見開いた



彼が見たのは、雨水が付着したためか、輝かしい長い銀色の髪



海のように蒼く、深いのに透明感のある美しい瞳



まともに見える彼女の素顔が、そこにあった



いつもフードを被っているせいで、まともに見た事がなかった素顔



単純に一言、綺麗だと思った



以来、こうして隙あれば後ろからフードを引っ張り、彼女の素顔を見るようになっていた



なぜそんな事をするのか?−−流石に何度もやっていれば、そう聞かれるのは当然だった



その時に彼が答えたのが、先程の言葉だった



「フードを被ると、視野が狭まるから危ないと思って。それに、勿体無いなって。雫さん、せっかく髪も瞳も顔も綺麗なのに。それを隠すなんて」



最初にこれを聞かされた彼女の反応を、雪男は鮮明に思い出せる



数回瞬きをした後、みるみると顔が赤くなっていった彼女



それを見て、彼はクスクスと笑った



照れて、恥ずかしそうにする彼女を見たのは、あれが初めてだったからだ



当然ご機嫌ナナメになった彼女をなだめる事になり、喫茶店で紅茶とスイーツの両方を、奢る羽目になったのだが



だが、そうなってもお釣がくるくらいだと思える程、雪男は珍しくて良いものを見たと思った



はっきり言うと、財布の中身以外は得した気分だった



おそらく父・藤本獅郎でさえも、彼女のこんな顔を見た事がないだろうと思えたから



雫「また、変な事言ってる・・・バカ雪。先行くから」



雪男「補佐が講師より先に行ってどうするんです?」



雫「!」



また、照れ隠しだ



雪男〈雫さんのそういう所が、可愛い〉



雪男「さて。では、行きましょうか」
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