紅の祓魔師

□序章
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私達は、生まれた時から一緒だった



ずっと、ずっと・・・一緒だった



なのに、なぜあの時・・・



なぜあの時、離れてしまったのだろう?



離れなければ、今も一緒だった・・・?




















「・・・・・・」



「っと。酷ぇな、こりゃあ・・・おい!誰か生きてるか!?」



見るも悲惨な姿となった、とある修道院



辺りに残る、青い炎・・・それが何を意味するのか、彼はすぐにわかった



「サタンか・・・」



生存者はいない、そう諦め掛けた時だった



「・・・!おい!!」



風になびく銀色を、見つけた



「・・・・・・」



「おい!大丈夫か!?」



駆け寄って顔を覗き込むと、座り込んでいたのはまだ幼い少女だった



10歳前後の少女だ



腰まである長い銀髪・・・そして彼女の目の前にも、同じように銀色の髪を持つ少女がいた



だが・・・



〈こっちは駄目か・・・脈がない〉



「・・・・・・」



「!この子・・・」



似ている・・・目の前にいる、この少女と



「・・・・・・ごめん」



「?」



「・・・ごめん・・・ごめんなさい・・・・・・私なんかと、双子で・・・ごめんなさい」



〈やはり双子、か・・・〉



「・・・・・・」



「・・・名前は?」



「・・・・・・穂邑と、雫。神月穂邑と、神月雫」



「穂邑と雫か。いい名前だな。俺は獅郎、藤本獅郎だ」



これが、彼女と彼の出逢い−−




















ぎゅ・・・



「・・・」



「それは?」



妹の葬式で−−彼女が握り締めているそれについて、藤本が問い掛ける



無言のまま彼女が見せると、掌にあったのは懐中時計だった



だがそれは



「懐中時計か。でもそれ、壊れてんだろ?」



文字盤に被さっているレンズはひび割れ、針も止まってしまっている



「でも、いいの。大事だから」



「大事?」



「【こくん】・・・もらったの」



「妹ちゃんからか?」



「ん」



「そっか・・・・・・修理は?」



「出来ないって」



「・・・・・・あとで、ちょっと一緒に来い」



「?」



葬式のあと、藤本は彼女を連れ出した



連れて来られたのは・・・



「ほれ、プレゼントだ。今度は壊すなよ」



時計屋



渡されたのは、今しがたまで悩みに悩んで購入した、新しい懐中時計だ



「・・・いいの?」



「ああ。そいつは、今までずっと一緒だった、妹ちゃんとの時間を刻んできた時計だ。これからはこいつで、お前自身の時間を刻んでいけ。こいつは俺からの餞別だ。と言ってもまあ、何度か様子は見に来てやるよ」



「なんで?」



「ん?あー・・・俺にもな、お前と同じ年頃の息子がいるんだよ。ふたりな。これまたお前と同じで、双子なんだよ。だからってのも変な話だけどな・・・ほっとけねぇんだ」



「双子の、兄弟・・・」



「いつか会う時がくるかもな。そのうち紹介してやるよ」




















「何、緊張してんだ。お前?」



「え、いや、その・・・!」



「どっちかっつーと・・・いや、かなりか。物静かな女の子だから、すぐ馴染む。そう緊張すんな、雪男」



「は、はい!」



〈ダメだ、こりゃ〉



「獅郎」



「おぉ!こっちだこっち!」



「あ・・・」



彼女を視界に捉えると、雪男は軽く目を見開いた



ワンピースの裾からすらりと伸びた、細く長い足



上に着ているパーカーのフードを被り、こちらを見つめる青い瞳



フードに隠れてしまっているが、彼女の髪が銀色である事はわかる



「・・・・・・」



「だれ?」



「え!?あ、えっと・・・」



「前にも話しただろ?俺の息子だ」



「は、はじめまして!奥村雪男です!」



「雪・・・?あ、弟」



「え?」



「話、獅郎から聞いてる。双子の兄弟がいるって。兄が燐で、弟が雪男」



「あ、はい。そう、です」



「・・・・・・雫」



「え?」



「神月雫」



「あ、よろしくお願いします。神月さん」



「雫」



「へ?」



「名前でいい。私も雪男って呼ぶから。あと堅い。堅苦しいのは苦手」



「は、はぁ・・・?」



「じゃあよろしく、雪」



「あ、はい・・・って、今なんて言った!?雪って呼んだよね!?雪男って呼ぶんじゃなかったの!?それじゃあ女の子みたいだよ!あ・・・」



「その調子、雪男くん」



クスリと笑い、小悪魔のような悪戯っ子の笑みを浮かべた彼女



やられた・・・



雪男はそう思うしかなかった



先に歩き出した彼女の背中を見つめていると、藤本が肩に腕を回してきた



「あいつの事、頼んだぞ。雪男」



「え?」



「あいつもな、お前と同じなんだよ」



「同じ?僕と?」



「双子の姉妹だった」



「双子・・・だった?」



「死んだんだよ、姉貴がな」



「え・・・」



「神月穂邑。紅い瞳を持った、あの子の双子の姉貴だった。なんかあったら、力になってやれ」



「・・・・・・はい」



これが、彼女と彼のはじまり−−




















さて、ここまででひとつの“矛盾”が生じている



その“矛盾”の真実が語られるのは、もう少し先の話になる・・・



もし、この“矛盾”に気付いた人がいるのなら、どうかそれまでは・・・



語らぬように−−
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